報道関係各位
4か国・25日間で宇宙線検出器6台を設置 ─ 中高生が国境を越えて同じ空を測るための拠点をつくる
加速キッチン代表の田中 香津生(たなか かづお)が、2026年7月23日から8月16日にかけてセネガル・ブラジル・アルゼンチン・ドミニカ共和国を訪問しました。各地の大学で宇宙線観測のワークショップを開き、中高生が使うものと同じ手のひらサイズの検出器をあわせて6台、現地に設置しています。目的は機材を届けることではなく、日本の中高生と現地の中高生が、同じ手順で同じ空を測り、そのデータを突き合わせるための拠点をつくることです。
宇宙線は、どこにでも降ってくる
素粒子物理学は、生徒の探究テーマにしにくい分野でした。対象が目に見えず、実験には加速器のような大がかりな装置が要るからです。ただし宇宙線は別です。宇宙のかなたで生まれた粒子が、いまこの瞬間も地表のあらゆる場所に降り注いでいる。手のひらに載る検出器さえあれば、どの学校でも、誰でも自分の手で行える唯一の素粒子実験になります。
加速キッチンはこの性質を土台に、中高生へ検出器を無償で貸してきました。貸与は300台超、組立ワークショップは年10回以上、自分で半田付けをする生徒は年およそ300人。うち100人超が1年を超えて測定を続け、生徒が立てた研究テーマは100件近く。2026年には高校生を筆頭著者とする査読付き論文が2本出版されました。
「どこにでも降る」という性質は、そのまま国際交流の条件でもあります。昨年、日本とシカゴの高校生が、大きな太陽フレアにともなう銀河宇宙線の減少を、太平洋をはさんで独立に観測しました。数日かけてもとに戻る同じ変化を、二つの大陸で。生徒たちはオンラインで顔を合わせ、二つのデータを直接つき合わせています。地球規模の現象であることを、生徒自身が地球規模で確かめた ── 一台の検出器では決してできないことでした。
このとき、もうひとつ分かったことがあります。日本の生徒は海外の同年代と話すのをためらいがちですが、「相手のデータが欲しい」という動機は、「話してみたい」よりはるかに強かった。会話ではなく任務があると、生徒は話しはじめる。今回の渡航は、この経験を各国に広げるためのものです。
北緯36度から南緯39度まで
宇宙線の降りかたは緯度によって変わります。地球そのものが巨大な磁石なので、赤道に近いほど磁場に弾かれる粒子が多く、地表に届く量が減るからです。同じ検出器を、同じ手順で、ちがう緯度に置くこと自体が一つの実験になります。
上海・マドリード・リスボン・ブエノスアイレス・サンティアゴ・パナマシティ・ニューヨークは乗り継ぎのみ。
ダカール ── 最初の一台を置いてくる
7月26日から27日にかけて、セネガル・ダカールのシェイク・アンタ・ジョップ大学(UCAD)を訪ねました。受け入れは同大学のAlassane Traore 教授。講演で加速キッチンの活動を紹介したあと、検出器の中身を開けて見せ、シンチレータと光センサーの貼り合わせ方、遮光、しきい値の決め方を、実機を回しながら説明しました。
そして検出器1台をそのまま大学に残してきました。
ナタール ── 国際学会で、教室の話をする
7月30日から8月5日まで、ブラジル・ナタールで第43回高エネルギー物理学国際会議(ICHEP2026)が開かれました。素粒子物理学で最大級の国際会議です。田中は7月31日、Education & Outreach セッションで口頭発表を行い、集まった各国の素粒子アウトリーチグループと議論を行いました。
ネウケン ── 大学と州と学校を、一度につなぐ
8月6日から8日まで、アルゼンチン・パタゴニア北部のコマウエ国立大学 工学部(FAIN)に滞在しました。
初日は工学部の講堂で国際講演を行いました。題は「粒子と反粒子の対称性の破れ ── 放射線計測から生まれる学際研究」。会場には50名を超える人が集まり、YouTube 配信でさらに約100名が視聴しています。
二日目はネウケン州教育省、工学部長 Dr. Marcelo Moreira 氏、コマウエ国立大学 国際部、州のイノベーション開発庁 ANIDE を続けて訪ね、教育連携と学生・教員の相互派遣について話しました。夕方には一般公開のミュオン検出ハンズオン(遠隔地の大学院生には Zoom で配信)。
ここには検出器3台を設置しました。受け入れ先は大学と、Prieto 氏が関わる地域のサイエンスクラブ。2027年にはトビタテ!留学JAPANに採択された日本の高校生がアルゼンチンに滞在し、宇宙線の共同観測を行う予定です。
写真提供:コマウエ国立大学/NoticiasNQN(撮影:Nico Calabró)
- La Facultad de Ingeniería de la UNCo vivió una jornada internacional de ciencia portátil con el Dr. Kazuo TanakaUniversidad Nacional del Comahue(2026年8月7日・スペイン語)
- El gran misterio de la física: por qué existe materia en el universoNoticiasNQN(2026年8月7日・スペイン語)
- La tecnología que permite saber con más precisión dónde actúa la radiación contra un tumorNoticiasNQN(2026年8月7日・スペイン語)
サントドミンゴ ── アメリカ大陸最古の大学で
8月12日から13日にかけて、サントドミンゴ自治大学(UASD)を訪問しました。1538年創立、アメリカ大陸でもっとも古い大学です。受け入れは理学部・物理学研究所の物理教育部門(コーディネーターの Erika Montero 氏、研究所長の Nelphy de la Cruz 氏)で、ドミニカ天文学会(ASTRODOM)が共催に入りました。
初日は学長表敬から始まりました。在ドミニカ共和国日本国大使が来賓として同席し、理学部当局との会談、日本大使館の訪問と続きます。午後は高度技術棟で講演と宇宙線実験。物理を学ぶ学生・教員・研究者に加え、ASTRODOM と SODOFI(ドミニカ物理学会)の会員が集まりました。夜には国立自然史博物館で ASTRODOM 理事会と会合し、活動拠点を見せてもらっています。翌13日は首都から約120km 離れたUASD アスア校(センター長の Francisco Ramírez 氏)へ移り、物理教育修士課程の教員・院生と「日本の各教育段階における物理教育」を議論しました。
ここには検出器2台を設置しました。カリブ海に、宇宙線を測りつづける新しい起点ができたことになります。
写真提供:サントドミンゴ自治大学 物理学研究所(IFIS-UASD)
- Físico japonés Kazuo Tanaka conecta a la UASD con la física experimental y redes científicas internacionalesInstituto de Física, UASD(2026年8月14日・スペイン語)
- アスア校でのセミナーの様子(動画)Centro UASD Azua・Facebook
残してきたのは、機材ではなくノード
どの寄港地にも、検出器と、それを使える人のチームを残してきます。寄付ではなく、ノードです。
── ICHEP2026 講演より検出器を送るだけなら郵送で済みます。それでも現地に行くのは、最初のワークショップを一緒にやることにこそ意味があるからです。今回の4か国では、いずれも検出器と、使いこなせるチームと、受け入れる学部の三つが揃いました。
次の段階は、人の往来です。アルゼンチンでは、日本の学生をパタゴニアへ派遣し、現地の学校でワークショップを担当してもらう計画がすでに動き出しています。同時に、東京と各拠点で同じ手順による同時観測を始めます。緯度がちがえば降ってくる量もちがう ── その差そのものが、生徒どうしがデータを交換する理由になります。
直近の目標は、2026年11月19日の International Cosmic Day です。世界中の学校が同じ日に宇宙線を測り、結果を持ち寄る国際企画で、今回設置した6台が新しい観測点として加わります。
加速キッチンの検出器貸与と探究サポートは、中高生の参加費は無料です。海外の学校・大学からのお問い合わせもお受けしています。
7月26–27日。Alassane Traore 教授の受け入れで、講演と検出器の使い方の講習を実施。検出器1台を設置。IPPOG Global Cosmics のパートナーとなりました。
7月30日–8月5日。7月31日、Education & Outreach セッションで口頭発表。生徒が組み立てる検出器と、学校をつなぐ国際観測ネットワークについて報告しました。
8月6–8日。国際講演、一般公開のミュオン検出ハンズオン(Zoom 配信)、州教育省・ANIDE・学部長・国際部への訪問、日本人学生派遣の打ち合わせ。検出器3台を設置。受け入れは Mg. Ana Prieto 氏、Dr. Susana Ramos 氏。
8月12–13日。学長表敬(在ドミニカ共和国日本国大使が同席)、理学部当局との会談、日本大使館訪問、高度技術棟での講演と宇宙線実験、ドミニカ天文学会 ASTRODOM 理事会との会合、アスア校での物理教育の討論。検出器2台を設置。
本活動は三菱みらい育成財団の支援を受けています。加速キッチンは2025年4月、文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)を受けました。
加速キッチンについて
加速キッチンは、中高生に素粒子検出器を無料で貸与し、研究機関と連携した宇宙・素粒子の探究活動を支援する組織です。これまで300台超の検出器を貸し出し、200名以上の生徒の探究を支えてきました。参加費は無料です。
本件に関するお問い合わせ先
- 加速キッチン合同会社 広報担当:須藤舞子
TEL:03-4500-0403/E-mail:info@accel-kitchen.com - 現地での高解像度写真のご提供、ICHEP2026 発表資料のご共有、田中へのインタビュー手配に対応します。
- 海外の学校・大学から検出器の設置や共同観測についてご相談いただく場合も、同じ窓口で承ります。