5色のボードに来場者の半券がびっしり貼られたブースの壁
ACCEL KITCHEN / 加速キッチンSCIENCE AGORA 2026 · EXHIBITION REPORTEnglish
出展レポート / 目に見えない宇宙線に触れてみよう

見えない宇宙線が、光る。鳴る。ふるえる。

宇宙から降りそそぎ、いま、あなたの頭を毎秒1個ほど通り抜けている粒子——宇宙線。霧・電気信号・音・光・振動、5つのちがう方法で「来た!」を感じてもらい、来場者ひとりひとりの「いちばん感じられた方法」を集めました。説明員は、自宅で宇宙線を測り続ける中高生です。

DATE
2026.9.12 (土) – 13 (日)
VENUE
テレコムセンタービル 4F 408
EXHIBITOR
加速キッチン
THEME
地球・環境・未来を守る
SCROLL
DAYS
2日間
9月12日・13日の2日間、ブースを開けっぱなしで対話
WAYS TO FEEL
5つの感じ方
霧・電気信号・音・光・振動
EXPLAINERS
中高生
自宅で宇宙線を観測している中高生と、支える大学生・大学院生
TICKETS
600枚以上
「宇宙線の旅」搭乗チケットは用意した600枚を配り切り、その後はチケットなしで体験していただいた
01

「音だけ」から、5つの感じ方へFrom one sense to five

昨年(2025年)のサイエンスアゴラでは、KEKと共同で「音が出る宇宙線の検知器」を出展しました。視覚障害のある方にも宇宙線を楽しんでもらいたい、というインクルーシブな展示です。

そこで得たフィードバックが、今年の出発点になりました。視覚障害といっても、点字を読む人、拡大鏡を使う人、音声で聞く人——受け取り方はさまざまで、障害の中にも多様なバックグラウンドがあります。ひとつの「正解の感じ方」を用意するのではなく、複数の「感じられ方」を並べて提示することが大事なのではないか。その気づきから、今年は5つの異なるアプローチで宇宙線を感じられる展示に組み替えました。

問いはシンプルです。目に見えない・感じられないものが「来た」と、人はどのように直感的に受け取るのか。視覚障害のある方に限らず、多様なバックグラウンドや幅広い世代の方から意見を集め、放射線・素粒子を実感する人間のメカニズムに迫ろう、というのが今回の趣旨でした。

白いテーブルに5つの装置が並び、背後の壁に5色のボードが並ぶブース全景
ブース408。手前に5つの装置、奥に5色の「感想ボード」。
エプロン姿の説明員6人がブースの前に並んでいる
エプロンが説明員の目印。中高生と、それを支える大学生・大学院生・スタッフでブースに立った。
02

宇宙線を感じる、5つの方法Five ways to feel a cosmic ray

どの装置も「宇宙線が来た瞬間」を、それぞれ別の感覚に翻訳します。装置の多くは、加速キッチンで探究活動をしている中高生と、それを支える大学生・大学院生が自分たちで組み立てた検出器です。

MIST
霧箱をのぞきこむ子どもたち
のぞきこんで、白い線をさがそう
過冷却の霧の中に、宇宙線が通った跡がシュッと白い線になって現れます。まっすぐ長い線が宇宙線、短い線は環境放射線。

Seeing is believing.

SIGNAL
ノートPCの画面に宇宙線の波形とピークADCの値が表示され、手前に検出器と「電気信号で感じる」の案内カードが置かれている
波形が「ぴこーん!」と出たら
シンチレータ検出器の信号をそのまま画面に。ピークの大きさで宇宙線と環境放射線を見分けられる、いちばん定量的な方法。

オシロスコープみたいで、生きているかんじがあった

SOUND
テーブルの小さな検出器に顔を近づけて音を聞く子どもたち
耳を近づけて、音色を聞いてみよう
宇宙線が来ると電子音が鳴り、そのエネルギーで音の高さが変わります。モナズ石を近づけると音はどう変わる?

SF映画にあった音だ!

LIGHT
テーブルに並んだ小さな光る検出器「ミニクラゲ」を見る親子
宇宙線がきたら、くるくる光る!
市民科学「雷雲プロジェクト」の小型検出器「ミニクラゲ」を光る検出器として使用。1分に1回ほどしか光らないものをたくさん並べ、たまにどれかが光るように。宇宙線のランダムさが目に見えます。

くるくるまわっておもしろかったから。

VIBRATION
エプロン姿のスタッフが振動デバイスを手渡し、来場者が手のひらで振動を確かめている
手に載せて、振動を感じてみよう
今年新しく導入。宇宙線が来ると、そのエネルギーに応じてブルッと震えます。目を閉じていても「来た」がわかる。

ブルブルしてておもしろかった

03

「宇宙線の旅」搭乗チケットBoarding pass for Cosmic Ray Lines

受付で、宇宙線の旅の「搭乗チケット」をお渡ししました。5つの装置を回り、宇宙線が感じられたものにチェック。いちばん感じられたものをひとつ選んでコメントを書き、半券をちぎって、同じ色のボードに貼っていく——それがこの旅のぜんぶです。

チケットを「アンケート用紙」ではなく「旅の道具」にしたことで、来場者は5つの装置をすべて試したくなり、ボードを見れば他の人がどこで感じたかも一目でわかります。貼られた半券は、そのまま私たちのデータになりました。

用意した600枚のチケットは会期中に配り切り、その後はチケットをお渡しできないまま体験していただいた方もいました。実際に5つの装置に触れた方は、これを上回ります。

エプロン姿の中高生が来場者にチケットを手渡している
受付で搭乗チケットを渡し、旅の流れを説明する中高生。
搭乗チケットのBOARDING PASS面。COS(宇宙空間)発AGR(サイエンスアゴラ)行き、便名CR 2026、座席MU-1。音・光・振動・電気・霧の5つのチェック欄と、切り取り線の先にIN-FLIGHT SURVEYの半券がある
BOARDING PASS 面。COS(宇宙空間)発、AGR(サイエンスアゴラ)行き。速度0.998c、座席MU-1。「FELT BY/感じたものぜんぶにチェック」の5欄と、切り取って貼る半券「IN-FLIGHT SURVEY」。
搭乗チケットのPASSENGER COUPON面。英語でWHAT ARE COSMIC RAYS?と宇宙線を解説し、加速キッチンのQRコードが載っている
PASSENGER COUPON 面。「WHAT ARE COSMIC RAYS?」——毎秒1個のミューオンが0.998cで通り抜け、寿命2.2マイクロ秒で15km上空から届く話を英語で。QRから加速キッチンへ。
  1. チケットをうけとる受付で搭乗チケットを1枚。もう片面は英語で「宇宙線って、なに?」
  2. 5つの装置をまわる音・光・振動・電気・霧。感じたら□にチェック
  3. いちばんを1つえらぶ半券の□にチェックして、どう感じたかを書く
  4. スタッフにわたすハンコを押して、半券をちぎってもらう
  5. おなじ色のボードへ自分で貼ったら、旅はゴール。本券はおみやげに
04

ボードが教えてくれたことWhat the wall of stubs told us

結果として、非常に多くの知見が得られました。まず、いちばん驚いたのは「偏らなかった」ことです。

HYPOTHESIS — 事前の仮説

人間として最も感じやすい方法があるはずで、回答はそこに大きく偏るのではないか。

→
RESULT — 実際のボード

霧・電気信号・音・光・振動、どれも満遍なく「これが一番感じられた」と選ばれた。未知のものをどう受け取るかは、その人の背景によって非常に多様だった。

5色のボードに半券がほぼ均等に貼られている様子
「一番感じられた方法」の半券は5色のボードにほぼ均等に散らばった。多様な伝え方を用意すること自体が重要だとわかった瞬間。

SOUND音色まで含めて、伝わる

音は今回、電子音として表現しました。すると「ピコピコ音がすごくSFチックでイメージが湧きやすい」といった、音色そのものに対する具体的なフィードバックが多く得られました。「何の音で知らせるか」も設計の一部だとわかりました。

  • 音がスターウォーズみたいで面白かった!
  • SF映画にあった音だ!
  • すごくかわいい音がした♪
  • 音の変化がおもしろかった
赤いボードに貼られた半券。「SF映画にあった音だ!」「すごくかわいい音がした」と書かれている
音のボード(赤)の半券より。

LIGHT「波」ではなく「粒」だと、ハッとする

光る装置には「ミニクラゲ」のような、1分に1回くらいしか光らない有効面積の小さな検出器を使い、それをたくさん並べることで「たまにどれかが光る」ようにしました。この見せ方が、宇宙線は常にまんべんなく波のように来ているのではなく、粒子としてピンポイントでそこに来ている——というランダム性を実感させ、「ハッとさせられた」というフィードバックにつながりました。

  • くるくるまわっておもしろかったから。
  • たくさん来てる感じがわかりやすかった
青いボードに貼られた半券。「くるくるまわっておもしろかったから」と書かれている
光のボード(青)の半券より。

VIBRATION目が見えなくても、音以上に届いた

今年も視覚障害のある方にたくさん来ていただき、直接フィードバックをいただきました。今回新しく導入した「振動する」しくみは、音以上に、目が見えない中でも感じやすいというご意見をいただけました。「石を近づけると振動が大きくなる」という変化も、手のひらで直感的に伝わったようです。

  • 違いが明確!
  • ブルブルしてておもしろかった
  • しんどうで伝わりやすいし、石を近づけると大きくなっておもしろかった
  • 目に見えないものを体感できたのは新鮮だった
橙色のボードに貼られた半券。「違いが明確!」と書かれている
振動のボード(橙)の半券より。

SIGNALいちばん定量的に「見る」

電気信号をそのまま見せる装置には、「オシロスコープみたいだ」「最も定量的に観測できる」という評価をいただきました。ピークの高さで宇宙線と環境放射線を見分けられることが、理科好きの来場者や大人の方に特に響いたようです。

  • オシロスコープみたいで、生きているかんじがあった
  • 電気は強さがわかるから良かった〜!!!
緑のボードに貼られた半券。「電気は強さがわかるから良かった」と書かれている
電気信号のボード(緑)の半券より。

MISTやっぱり、見える

霧箱は今回も根強い人気でした。「やっぱり視覚!」「Seeing is believing」といったコメントに加え、「放射線を人生で初めて見ました」という声も。存在を確かめるという意味では、目で見ることの説得力はやはり大きいと再確認しました。

  • Seeing is believing
  • やっぱり視覚!
  • 目に見えるから存在が確かめやすかった
  • 放射線を人生で初めて見ました…やっぱり放射線の世界はおもしろいですね!
紫のボードに貼られた半券。「Seeing is believing」「放射線を人生で初めて見ました」と書かれている
霧のボード(紫)の半券より。
05

ブースで出たキーワードKeywords from the booth

多様な感じられ方インクルーシブ音色振動粒子性とランダム性定量的に見るSeeing is believing搭乗チケット環境放射線との違い中高生が伝える自宅で宇宙線を測る目に見えないものを実感する
06

中高生が、市民と対話するStudents meet the public

加速キッチンは、中高生を対象に素粒子探究の支援をしています。年間数百人の中高生が自分で検出器を組み立て、自宅で宇宙線を測っています。今回展示した検出器も、そうした中高生と、それを支える大学生・大学院生がつくったものです。

自分たちの検出器や宇宙線観測を、どう伝えればもっとよく伝わるのか。今回も中高生自身がお客さんの前に立ち、検出器について紹介し、直接意見をもらいました。対面で率直な反応を聞ける機会は、探究を続ける中高生にとってとても貴重です。

宇宙線を測っている中高生と市民との対話——サイエンスアゴラという場ならではの意義が、大きく生まれた2日間でした。

300名以上
これまでに支援した中高生観測者。検出器300台以上を貸与
19カ国
で宇宙線観測中。海外の中高生とも観測をつなぐ
2025
文部科学大臣表彰(科学技術賞 理解増進部門)
エプロン姿の中高生たちがブースに立つ
ブースに立つ中高生の説明員。
中高生が来場者にチケットの見方を説明している
来場者に旅の流れを説明。
水色のシャツの中高生たちが検出器の画面をのぞきこむ
他校の中高生も装置に見入る。
07

話し合った未来像と、これからWhat we take forward

「伝え方の多様性」を、検出器の設計に返す

  1. 5つの感じ方を、標準装備にひとつの正解を探すのではなく、複数の翻訳を並べる。中高生に貸与する検出器にも、音・光・振動など複数の出力を選べる設計を取り入れていきます。
  2. 振動デバイスを育てる視覚障害のある方から「音以上に感じやすい」と評価された振動出力を、エネルギーの違いがより伝わる形に改良します。
  3. 音色・見せ方を「設計」する電子音の音色、ミニクラゲの配置の密度など、来場者のコメントから見えた「伝わる条件」を次の展示と教材に反映します。
  4. 半券を、次の研究テーマに5色のボードに集まった半券とコメントを整理し、「人が見えないものを実感するメカニズム」として中高生の探究テーマにつなげます。