報道関係各位
高校生・佐々木柚榎さんが、放射線の光を市販カメラで撮影
中学1年生のときから加速キッチンで宇宙線を測り続けてきた高校生の佐々木 柚榎(ささき ゆずか)さんが、放射線が結晶の中で放つかすかな光を、ふつうのデジタルカメラで直接撮影することに成功しました。さらに、写った光のひろがり方から放射線のエネルギーの違いを見分けられることを示しています。使うのは遮光箱と市販のカメラだけ。専用の高感度センサーを使わずに学校の授業1コマで再現できる実験としてまとめ、英国物理学会(IOP)のPhysics Educationに掲載されました。本研究は大阪大学SEEDSプログラムと加速キッチンの支援のもとで行われました。
- 論文タイトル
- “Using Consumer Cameras to Observe Scintillation Light from Radiation”
- 著者
- Yuzuka Sasaki, Yuuki Wada, Kazuo S. Tanaka
- 掲載誌
- Physics Education(英国物理学会/IOP Publishing)
- 掲載日
- 2026年9月1日
- 巻号
- Vol. 61, No. 5, 055007
- DOI
- 10.1088/1361-6552/ae95cf
中学1年生から宇宙線を測ってきた高校生
佐々木さんが加速キッチンに参加したのは中学1年生のときでした。貸し出された検出器を自宅に置いて宇宙線を測りながら、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の GOES 衛星や気象庁の地磁気観測所が公開しているデータと突き合わせ、宇宙天気と地上に届く宇宙線の量に関係があるかを調べています。その成果は超異分野学会 大阪大会2022 で発表しました。
今回の研究のもとになった問いが生まれたのは中学2年生のときです。「放射線が結晶の中で放つ光を、市販のカメラでそのまま撮れないか」という探究に取りかかりました。この段階の成果はハイスクールラジエーションクラス2023 で発表し、優秀賞を受賞しています。今回の論文は、このときの問いを形にしたものです。
高校1年生では、加速キッチンで結成された高校生チーム「Sakura Particles」の一員として、CERN(欧州原子核研究機構)が主催する高校生の国際実験コンテスト Beamline for Schools に挑みました。世界から集まった過去最多461件の提案の中から日本人として初めて最優秀賞に選ばれ、スイス・ジュネーブの CERN で2週間のビーム実験を行っています。
そして高校2年生だった2025年には、20歳未満を対象に原子力科学・放射線技術を競う国際原子力科学オリンピック(INSO)の日本代表4名の1人に選ばれ、マレーシアで開かれた第2回大会に参加しました。日本からの代表派遣はこの回が初めてです。
自宅で宇宙線を測るところから始まった探究は、こうして国際的な舞台へとつながっていきました。その出発点にあった「見えない放射線を自分の目で確かめたい」という問いが、今回の論文になっています。
検出器の中で光っているのに、生徒には見えない
放射線を直接「見る」ための教材は、長いあいだ霧箱だけでした。近年は、放射線が当たると光るシンチレータと、その光を電気信号に変える SiPM を組み合わせた小さな検出器が学校にも広がり、加速キッチンもこれまで300台超を中高生に貸し出してきました。ところが、生徒の手元に届くのは画面に出る数字とクリック音だけで、検出器の心臓部であるシンチレーション光そのものは見えないままです。放射線を測っているという実感が、いちばん肝心なところで途切れてしまいます。
この光がとても弱いために専用の高感度センサーが要る、というのがこれまでの常識でした。しかし、身のまわりのデジタルカメラに使われるセンサーの感度は近年大きく向上しています。学校にすでにあるようなカメラで、その光をそのまま撮れないか ── 本研究はこの問いから出発しました。
ふつうのカメラで放射線を「見る」
黒い遮蔽箱の中に、長さ約5 cm の細長いヨウ化セシウム(CsI)の結晶を横向きに置き、その左端に放射線源を、真横にカメラを構えます。あとは箱を閉じて、10分間シャッターを開けたままにするだけ。表示ランプは黒テープでふさぎ、外の光がまったく入らない状態にします。
カメラは性質の違う2台を比べました。1台は市販のコンパクトデジタルカメラ、もう1台は天文部やアマチュア天文で広く使われている冷却カメラで10万円台で手に入る量産品です。線源には、樹脂に封じ込めて外に漏れない形に加工された密封線源を3種類(アメリシウム・バリウム・セシウム)使いました。
結果、2台のどちらでもシンチレーション光を写すことができました。線源を置いた端がもっとも明るく、そこから離れるにつれて暗くなっていきます。そして明るい部分の幅は、線源の種類によってはっきり違いました。エネルギーの高いセシウムでいちばん広く、バリウム、アメリシウムの順に狭くなります。これは、エネルギーの高い放射線ほど結晶の奥まで入り込むという物理を、そのまま目に見える形にしたものです。
- シンチレータ
- ヨウ化セシウム(CsI)結晶、49×10×6 mm³
- カメラ
- 市販コンパクトカメラ SONY DSC-RX100M7(F2.8、ISO 12800)/冷却CMOSカメラ ZWO ASI533MM Pro(25 mm F1.8 レンズ)
- 露光
- いずれも600 秒、16bit TIFF で記録
- 線源
- Am-241(59.5 keV ガンマ線)/Ba-133(356 keV・81 keV)/Cs-137(662 keV)。いずれもアクリル樹脂で封入された密封線源
- 解析
- sRGB の画素値を国際規格 IEC 61966-2-1 に従って線形輝度に変換し、距離に対する1次元強度プロファイルを f(x) = a·e−bx + c でフィット。減衰定数 b は Cs-137 で 0.293、Ba-133 で 0.745、Am-241 で 1.606 mm⁻¹ と、エネルギーが高いほど小さくなる
- 残光
- 遮光したまま300秒間隔で300秒露光を7回撮影し、平均輝度が背景レベルへ向かって減衰していくことを確認
授業1コマに収まる実験として
この手法のねらいは、特別な設備のない学校でそのまま再現できることです。必要なのは遮光できる容器(段ボール箱の内側に黒い布を貼れば十分です)、長時間露光ができるカメラ、小さな三脚やスタンド、そして密封された点検用線源だけ。専用の高感度光検出器は要りません。学校にすでにある市販のデジタルカメラで足りますし、よりきれいな結果がほしければ冷却カメラという選択肢もありますが、市販カメラだけでも線源による違いは見えるため、必須ではなく上位オプションという位置づけです。
時間の目安は、箱の製作とカメラの設置に15〜20分、線源1つにつき10分ほどの露光を1回、画像の読み取りにさらに20〜30分。中心となる活動は授業1コマに収まり、解析は宿題として続けることもできます。生徒の手順は4ステップです。(1)遮光箱を組み立て、試し撮りで外光が入っていないことを確かめる。(2)スタンドに結晶を置き、その端に密封線源を置く。(3)箱を開けずに10分間露光する。(4)写った明るさを結晶に沿った距離に対してグラフにする。
生徒は、線源のそばが明るく、その明るい部分の広さが線源によって違うことを自分の目で確かめます。そこから「なぜエネルギーが高いほど奥まで届くのか」「結晶はどうやって見えない放射線を光に変えているのか」といった問いが自然に立ち上がります。検出器の心臓部にあるシンチレーション光を実際に見るという体験が、長時間露光の撮影や簡単な画像解析とあわせて手に入ります。
安全性について。本研究で用いた線源はいずれも放射性同位元素等規制法の下限数量を下回り、規制の対象外です。線源は施錠し、表示を付けた容器で保管し、指導者の監督のもとでのみ取り扱いました。ただし、密封線源の入手可否や規制は国によって異なります。授業で実施される際は、その国・地域で認められた線源のみを用い、各国の法令と所属機関の指針に従ってください。
論文の著者
※所属は論文投稿時点のもの。佐々木さんが筆頭著者を務めています。
本研究は、加速キッチン、大阪大学SEEDSプログラムおよび三菱みらい育成財団の支援を受けて実施されました。
用語の説明
放射線が当たるとかすかな光を放つ物質をシンチレータ、そのときの発光をシンチレーション光といいます。目に見えない放射線を可視光に変える役割を担い、放射線検出器の心臓部として基礎研究から医療・産業まで広く使われています。本研究で用いたヨウ化セシウム(CsI)は、代表的なシンチレータ結晶のひとつです。
ごく弱い光を電気信号に変えて増幅する半導体センサー。シンチレーション光は非常に微弱なため、通常はこの SiPM や従来型の光電子増倍管のような専用の高感度センサーが必要になります。感度は高い一方で高価で、学校での実験を難しくしてきました。
大阪大学が高校生を対象に実施する、科学技術人材育成のためのプログラム。大学の研究環境に触れながら、生徒が自ら課題を設定して研究に取り組む機会を提供しています。佐々木さんは中学2年生のときからこのプログラムの支援を受け、本研究に取り組みました。seeds.osaka-u.ac.jp
スイスの CERN(欧州原子核研究機構)が世界の高校生を対象に開く、加速器実験の提案コンテスト。選ばれたチームは実際に CERN のビームラインを使って自分たちの実験を行えます。佐々木さんは高校1年生のとき、加速キッチンの高校生チーム「Sakura Particles」の一員として、過去最多461件の提案の中から日本人として初めて最優秀賞に選ばれました。その成果は国際学術誌 NIM-A に掲載されています。beamlineforschools.cern
20歳未満を対象に、原子力科学と放射線技術の知識・実技を競う国際大会。2024年にフィリピンで第1回が開かれ、2025年の第2回は国際原子力機関(IAEA)の支援のもとマレーシアで開催されました。佐々木さんは日本から初めて派遣された代表4名の1人です。日本国内の情報は日本原子力文化財団のページにまとめられています。
加速キッチンは宇宙・素粒子分野を自分たちの力で探究できる世界をつくることを使命として、理工学系や様々な分野の大学生・大学院生を中心として活動しています。この活動は徐々に広がり現在では世界でも最大の素粒子探究ネットワークとなりました。素粒子を測定してその極小の世界の性質を調べたい中高生のために安価で手軽に使える素粒子検出器を配布し、研究者や様々な市民科学プロジェクトと中高生をつなぎ、世界中の研究者や中高生と共同研究をするきっかけを提供しています。accel-kitchen.com
加速キッチンについて
加速キッチンは、中高生に素粒子検出器を無料で貸与し、研究機関と連携した宇宙・素粒子の探究活動を支援する組織です。これまで300台超の検出器を貸し出し、200名以上の生徒の探究を支えてきました。参加費は無料です。
本件に関するお問い合わせ先
- 加速キッチン合同会社 広報担当:須藤舞子
TEL:03-4500-0403/E-mail:info@accel-kitchen.com - 高解像度の実験写真・図のご提供、著者へのインタビュー手配、論文内容に関する専門的なご質問にも対応します。