Chiang Mai University(タイ)のWaraporn Nuntiyakul博士 (以下Fhonさん)は、宇宙線観測や南極でニュートリノ観測を行うIceCube実験等に関わっています。宇宙線アウトリーチとして、IceCube実験のアウトリーチに加えて簡易検出器Cosmic Watchを砕氷艦に搭載して中高生の探究活動へ活用したりと様々な国内の宇宙線アウトリーチ活動を取り組んでいて、現在は加速キッチンを含めた国際的なアウトリーチ連携も意欲的に進めています。
どのようなアウトリーチ活動を行っていますか?
私は宇宙線・ニュートリノ観測を専門としており、ニュートリノの観測を南極で行っているIceCubeに関わっています。
IceCubeについては「Rosie & Gibbs」という漫画を読んでみるとわかりやすいかと思います。英語やタイ語など、11の言語で読むことができ、楽しみながら南極やアイスキューブについて学べます。( https://icecube.wisc.edu/outreach/activities/rosie-gibbs/)
その他にスイスのCERNで行われているSND@LHCというLHCの陽子-陽子衝突から生成されるニュートリノを観測する実験などに関わっています(実験の説明)。またドイ・インタノンというタイで一番高い山に中性子検出器を設置して宇宙線のモニタリングを行っています。標高は約2,565メートルです。富士山ほど高くはありませんが、美しい場所です。
IceCubeとしてはどのようなアウトリーチ活動を展開していますか。
IceCubeではアウトリーチ活動としてInternational Materclass(素粒子解析体験プログラム)という枠組みで、ニュートリノ観測のデータ解析体験を提供していますが、その中でタイ語での翻訳といった形で私もかかわっています。IceCubeのMasterclassはこちらのウェブサイトからアクセスできるので興味がある方はアクセスしてみてください。タイ語のほか、いくつかの言語でも提供されています。
また、幅広い年齢の学生にIceCube実験について知ってもらうため、University of Wisconsin–Madisonが開発したIceCube実験を視覚的に体験できるVRプログラム(Oculus)を提供しています。
宇宙線観測としてはどのようなアウトリーチを行っていますか。
私たちは中性子検出器をアイスブレーカーに搭載してを南極・北極海域での中性子宇宙線のモニタを行っています。前回はこの中性子検出器と一緒にCosmic Watchを搭載して同時に観測を行いました。このデータは高校生によって解析が行われ、Cosmic Watchで観測された宇宙線到来頻度と緯度の間にきれいな相関があることを発見しました。AOSWA2024でその成果が高校生によって発表されています。(Aiya Suttikulbutr et al., Preliminary Study on Portable Muon Detector Calibration with Shipborne Neutron Monitor, AOSWA2024)
一緒に搭載している中性子検出器は7トンもある巨大なものですが、手のひらサイズの宇宙線検出器Cosmic Watchでも興味深い観測ができるのです。
また、ドイツ・DESYで行われているInternational Cosmic Dayに参加して国外の宇宙線観測を行う高校生との交流機会もつくりました。
(International Cosmic Day2023でタイのグループはPhoto Contestで優秀賞を受賞しています。)
アウトリーチ活動を続けるモチベーションはなんですか?
学生が好奇心を持って宇宙線やニュートリノについて学んでいるところを見ているだけで元気付けられ、続けたいと思えます。将来この世界を生きて形作るのは私の世代ではなくて今の学生なので、彼らに最大限の可能性を最先端の物理を教えるという形で与えようと頑張っています。
将来、どのような取り組みでアウトリーチ活動を広げていきたいですか?
チェンマイ大学でもCosmic Watchを製作できる体制をつくり、目標として30 台程度をつくり、高校生の探究活動に生かしたいと考えています。例えばアイスブレーカーに搭載して行っている南極・北極海域での宇宙線観測も複数の検出器を設置することでより統計をためることができ、意義のある測定ができると考えています。より学校の設置に最適化された検出器へとアップデートしていきたいと考えています。また、加速キッチンとの連携を深め、国内だけでなく国際的な宇宙線アウトリーチの交流も深めたいと考えています。
Fhonさんのアウトリーチ活動や研究に興味を持った学生は、今後のイベントにどのように参加できますか?
より詳しい私たちの活動はウェブサイトで調べてみてください。興味を持っていただけたら、加速キッチンを通して問い合わせください。(*加速キッチンではタイだけでなく様々な国と宇宙線探究ネットワークを構築しており、中高生に様々な国際共同探究機会を提供しています)もしくは、私に直接メールを送ってください!(waraporn.n@cmu.ac.th ) 私は常に共同で研究を行う仲間を探しているので、学生の方でも研究に取り組みたい人は気軽に連絡してください!
最後に、中高生や宇宙線アウトリーチに関わる人々、学校の先生方にメッセージをお願いします。
科学を学ぶことは本当に楽しいです。自分が興味を持ったことを大切にし、楽しんで、好奇心を持ち続けてください。もし宇宙線やニュートリノに興味を持ったら、私たちと一緒にこの素晴らしいテーマを探求してほしいです。
Fhonさんの素粒子物理アウトリーチへの熱意が伝わってくるインタビューでした。国内で積極的にアウトリーチ活動に取り組んでいるだけでなく、ICD (International Cosmic Day)という素粒子物理に関する探究活動を国際的に発表する場でもVR体験や、Cosmic Watch検出器を使って高度ごとに宇宙線を測定するなどのアクティビティを実施したそうです (https://ur0.jp/kn3Zl)。今年(2024年)は高校生と一緒に海外で収集した宇宙線の観測結果を発表する予定だそうです。Fhonさんの活動に参加するには、Fhonさんへメールすれば良いそうです。素粒子に関心のある中高生はぜひ連絡してみてください。
加速キッチン大学生スタッフ
UCL Physics Year 1
加速キッチン2024年度卒業生