はじめに

 原子や素粒子の精密測定を行う上で重要な装置の1つが「トラップ」です。できるだけ安定して測定をするためには長く安定して測定する場所に静かに素粒子がトラップに閉じ込めらていることが望ましいです。多くの場合素粒子は何かの他のものと衝突するとトラップから吹っ飛んでしまうので真空中で何にも触れずにある場所からできるだけ動かないようにする必要があるわけです。そこで特に電荷をもつ粒子の場合は電場や磁場の力を使って、粒子がどこにも触れずにその場にとどまるようにするわけです。

反水素の生成実験に用いたカスプトラップの多重電極。各円筒に電圧をかけることで反陽子・陽電子を同時に閉じ込められる。
Blenderの物理シミュレーションによる回転する鞍に置かれたボール。いい回転数で回すと落ちずに安定する。

ポールトラップは電場のみで粒子を閉じ込める代表的な方法です。z軸方向とxy平面とで交互に振動する電場を印加することで、トラップを行います。左図はそれを模式的に表したもので、鞍点に置かれたボールはいい回転速度で鞍を回すと落ちることはありません。同じように振動する鞍型ポテンシャルの電場をつくってあげると粒子はそこで安定して閉じ込めることができます。私たちは中高生とこのポールトラップを開発したり、粒子をトラップしてその性質を調べるような探究支援を行っています。


開発事例

概要

私たちは学校でも安全・簡単に楽しめるポールトラップとして、電源・カメラなどが組み込まれたオールインワン型のポールトラップを開発しています。コンセントから電源を取り、USBをPCにさすことで、すぐに右図のようにトラップを行う事ができます。

リング型

もっとも簡単な形式で、リング型の電極と上下の丸みを帯びた電極の間で振動電場を与えることでトラップを行います。リング部分を例えばクリップに置き換えることもでき、どういう形の形状ならどんなトラップ像になるか、といった探究を行う事ができます。

リニア型

4本の平行な導体で互いにフェーズが半周期ことなる振動電場を与えることで、この軸上にトラップすることができます。この時振動電場の強度を調整することでトラップ粒子の振動モードを変えてあたかもダンスをしているような様を作り出すことができたりします。

リニア型(縦)

リニア型を地面に対して垂直にしたものです。このままだと重力によって粒子は下に落ちてしまいますが、下部に電極を置き一定のDC電圧を印加すると、クーロン力と重力が釣り合ってトラップされます。これはいわばミリカンの実験と同等のことを行っており、比電荷の測定ができることになります。

探究事例

RF電場を用いた粒子捕獲装置であるポールトラップを用いたイオントラップ実験、物理学会2022春(学生優秀発表賞)