世界中の国に宇宙線検出器を配布し、e-labというクラウド型データサーバ・宇宙線解析プラットフォームを立ち上げ、マスタークラ(素粒子解析体験プログラム)、高校教員を対象とした物理学講義と、アメリカを中心に様々な先端物理学にふれる機会を提供しているKenneth Cecireさんへのインタビューです。
どのようなアウトリーチ活動を行っていますか?
Quarknetという素粒子物理アウトリーチグループに所属し、主に宇宙線探究の支援、マスタークラス(素粒子解析体験プログラム)、そして高校教員を対象とした物理学ワークショップの3つを行っています。マスタークラス(素粒子解析体験プログラム)は、学生自ら実際の加速器実験で収集されたデータの解析を行うワークショップです。このプログラムはイギリスの高校で最初に行われたもので、学生はイベントビューワーというツールを使用し、発生した物理イベントのコンピュータレンダリングを見ることができます。後にヨーロッパのアウトリーチグループによって引き継がれ、私はドイツの同僚と協力してCMSマスタークラスを2つ作成しました。その後、ニュートリノに関するマスタークラスも作成しました。現在では、ATLAS、ALICE、LHCb、BELL II、MINERvA、Particle Therapy、Pierre Augerのマスタークラスも提供しています。参加する学生たちは1日だけ粒子物理学者になり、データを解析し、結果を共有し、ビデオ会議で物理学者と話し合うことができます。
高校教員に対しては、特殊相対性理論、量子物理学、ニュートリノ物理学についての講義などを行い、教員自ら現代物理学を学べる場を提供しています。
なぜQuarknetの活動を始めたのですか?
活動を始めたのは、高校生が最新の物理学に触れるのが難しいという課題を解決したかったからです。アメリカの高校では、物理を教える時間は限られているため、高校生が現代物理学まで履修することは稀です。現代物理学まで到達したにせよ殆どの高校教員にとって現代物理学を教えることは困難です。しかしながら現代物理学は非常に興味深く、学生にとっても魅力的です。
アウトリーチ活動を行う中で、いつ喜びを感じますか?
マスタークラスを行うときはいつも楽しいです。学生たちが何かを発見する瞬間を見るのは素晴らしいことです。また、教師の同僚と協力してマスタークラスを作り上げることも喜びです。もしこの仕事をしていなかったら、別の場所で働いていたと思います。
将来、どのような取り組みでアウトリーチ活動を広げていきたいですか?
今後も国際的に宇宙線アウトリーチをしていきたいです。政治的な関係性が悪い国でも、素粒子実験となると当たり前に協力できるほど、素粒子物理学の世界で国際協力は一般的です。そのため、アウトリーチ活動を国際的に協力して行う事も、ごく自然の成り行きでした。これまでには、モロッコの学校で素粒子物理に関するワークショップをしたり、日本の加速キッチン1・スイスのCERN2などの団体と協力して活動したりしてきました。
クォークネットに興味がある中高生は、どのようにして参加すれば良いですか?
Quarknetなどに興味を持ったら、まずは私にメールしてみてほしいです。連絡してもらえれば、その中高生の住む地域で活動しているアウトリーチグループや近々に行われるイベントを紹介できますから。
最後に、中高生や宇宙線アウトリーチに関わる人々、学校の先生方にメッセージをお願いします。
物理学は、本当に面白い学問です。そして、例えば運動量保存の法則を学んだときに、Zボソンが2つのミューオンに崩壊する様子を学ぶなど、学校教育で習う様々な事柄と関連付けて物理についても学べたらもっと良い学びに繋がると思います。
Kenさんの素粒子物理アウトリーチへの熱意が伝わってくるインタビューでした。インタビュー翌日には、ワークショップのために出発するなど、世界中を飛び回っているようです。Quarknetのイベントに参加するには、Kenさんへメールすれば良いそうです。素粒子に関心のある中高生はぜひ連絡してみてください。
加速キッチン大学生スタッフ
UCL Physics Year 1
加速キッチン2024年度卒業生