プログラムの表示画面。マイクから入力した音に対して波形・スペクトル・スペクトルの時間変化の3つのグラフをリアルタイムで表示することができ、またそのグラフを画像として保存できる

背景

  現行の学習指導要領では中学理科の「音の性質」で音の3要素(音の大きさ、高さ、音色)を学習しますが、音色に着目することはあまりありません。これは音色を定量的に扱うのが難しいからですが、その中でも音色の性質をよく理解するのに有効な図がスペクトルです。波形に含まれる周波数成分を可視化することで音の特徴をよくとらえることができます。

成分の合成音による波形、スペクトル、スペクトルの時間変化。波形で分からない音色の特 徴がスペクトルによって可視化することができる。


  このようなツールがあると、中学校・高校でも気軽に音色から音を考える活動を展開を行う事ができます。特にGIGAスクール構想で様々なデジタルデバイスが中学・高校に導入されているため、

  • 身の回りの音の波形を自ら調べて考えることで、より音や波に関心をもつ
  • スペクトルという波動の可視化を学び、探究活動で活用できる

を狙いとして、ウェブブラウザで動作しどのデバイス環境でも使えるアプリケーションをつくりました。 授業の演示、探究活動への活用など様々な活用事例があります。

音のスペクトル分析からSTEAM教育・SDGsに関連した様々な学習が可能になる。

活用例

母音の分析

母音の音色はフォルマント周波数で特徴づけられることが知られています。フォルマント周波数は母音を発声する際にみられるみられる特徴ピークで、低い周波数からF1,F2,F3…と呼ばれており、このうち

  • F1:口の開口度とほぼ対応する。口を大きく開けると周波数が高くなる。
  • F2:舌位置とほぼ対応する。舌が前に位置するほど周波数が高くなる。

という関係が知られ、この2つの周波数の関係から母音を同定することができます。

 数はが「あ、い、う、え、お」のスペクトルです。このスペクトルの特徴から逆に母音をあてたりするようなワークを行う事も出来ます。その他にも以下のようなことができるでしょう。

  • スペクトルの画像から何と言っているかを当てる
  • クラス内でフォルマント周波数を調べ様々な相関を調べる。(性別や身長による違い等)
  • 英語の母音について特徴を調べて、自分の発音を確認する。(「ʌ」「æ」「ɑ」による発音の違い等)
母音のスペクトル例。F1、F2の関係から母音の種類を推定することができる。

いろんな音のスペクトルを観察する

楽器の分析

  活用事例の1つとして音楽の授業などでの楽器を使った活動と組み合わせるというものがあります。バイオリンを使った探究事例として以下のようなものが挙げられます。

バイオリンのG線、D線、A線、E線による違い

バイオリンは全部で音の高さ事にのG線、D線、A線、E線の4つの弦があります。それぞれ太さや材質も異なるため、音の高さだけでなく音色も異なります。下図のように一番低い音から順番に音階を弾いていきながら使う弦を変えていくと、音程だけでなく音色の違いがスペクトルとして表れていくことが分かります。

バイオリンのG線、D線、A線、E線ごとのスペクトル。G線は芯材の周りにアルミではなく銀線が巻きつけてある構造で他の弦に対して特徴的な太い音がするが、低い周波数領域に特徴的な巣スペクトルとして表れている。D線、A線、E線の順で細くなるが、D線に比べてA線は低い周波数領域の強度が低く、E線はA線にはみられない高周波数領域でのスペクトルがみられる。
バイオリンのG線、D線、A線、E線による違い

 バイオリンの弦は各メーカーによって製造・販売されておりそれぞれ音の性質が異なります。これらの音の特徴がスペクトルから観察できるでしょうか。下図はそれぞれの弦で弾いた音のスペクトルピークを取得し、各倍音成分ごとのスペクトルピークの強度をプロットしたものです。以下、個人的な印象としてDominantは定番の弦で、Alphayueは厚みのある音色、Tonicaはきらびやかなイメージです。それぞれ、Alphayueは2倍・3倍音の比較的低周波数領域で強度が高く、Tonicaは高周波数領域でDominantに比べての強度が大きいです。これらからこういった主観的な音色の印象を考えていくことができるかもしれません。

弦による倍音成分の違い
できるだけ1成分のみの音をつくってみる

 1つの周波数成分のみによる音を身の回りのものを使ってつくってみるという活動を行う事で、1つの周波数成分のみに絞るのは難しく、どのような音も様々な成分が基本的には混ざっているという事を体感できます。中高生が実際に行った例として、口笛、裏声、目覚ましの電子音等の工夫がありました。

4:1成分のみの音の提出例(左)、および時間変化表示の口笛(中央)と目覚まし(右)。
できるだけあらゆる周波数成分が含まれる音をつくってみる

  広い周波数領域で強度が同程度となる音をつくってみるという活動で、音におけるノイズ成分について直感的に体感することができます。中高生が実際に行った実例として、机をたたく音、手をたたく音等がありました。

ノイズに近い音の提出例、机をたたく音(左)、ビニール袋をこする(中央)、息を吹きかける(右)

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