研究テーマの明確化
まず最初にやることは、研究のテーマやキーワードを具体化することです。
研究の目的・対象・焦点を絞り込み、それを言葉で表すためのキーワードやフレーズをリストアップしましょう。 論文を探すときの「検索語」になるのがこのリストです。この段階では、同じことを別の言い方でも探せるように、 類義語や関連用語も一緒に書き出しておくとうまくいきます。
テーマを言葉にするコツ
- 研究の目的・対象・焦点を、短い言葉にして書き出す。
- それを表すキーワード/フレーズをリストにする。
- 類義語・関連用語、そして英語の言い方も添えておく(検索に効く)。
資料の種類
文献や先行研究を調べることは欠かせませんが、使う場面によって資料を使い分けることが大切です。
まずは本・レビュー記事から
研究を始めて間もない時期や、分野の周辺知識が足りないと感じるときは、本やレビュー論文(論文の種類は3章で後述)から読むのが有用です。 自分の知識レベルと、研究に必要な知識をうまく橋渡ししてくれる本を見つけるのは、意外と大変なこと。 まずはブルーバックスなどで分野の歴史を知ることから、平易なものを選んで読み進めるのがおすすめです。
- 名古屋大学「宇宙線50の謎」:isee.nagoya-u.ac.jp/50naze/cosmicray
- 物理学選書『宇宙線』(小田稔 著)——タイトルはシンプルですが、大学学部3年生以上が対象。大学レベルの基礎的な数理物理を理解せずに読むのは難しいでしょう。
多くの学術論文は基本的に英語で書かれていますが、まずは日本語の記事から情報を得るのが取っ付きやすいです。 おすすめは、日本の『物理学会誌』や『天文月報』といった学会誌の、とくにレビュー記事。 一つの分野に関する解説が日本語で読めます。研究者のエッセイのような読み物も特集されていて、読んでみると楽しいですよ。
学会の要旨・発表演目を見る
もう一つのおすすめは、国内学会の要旨や発表演目を見ることです。要旨とは、学会講演の内容を簡潔にまとめた文章のこと。たとえば——
これは地球科学に関する学会「JpGU」のサイトで、毎年多くの加速キッチン参加者が発表している学会でもあります。 残念ながらJpGUではWeb上で要旨そのものは読めませんが、タイトルだけでも読む価値はあります。 どんなトピックが多く発表され、どんな手法がよく使われているのかが見えてきます。他の学会ではWebに要旨が載っている場合もあるので、検索してみてください。
なお、学会発表の内容は最新である一方、査読を経ていないことが多い(査読のある学会もあります)。 査読されていない発表は内容の妥当性が十分に検証されていない可能性があるので、引用文献として引くときは注意が必要です。
SNSやウェブサイトの情報は速報性があってとても便利ですが、研究を進める上では真偽不明のものも多いです。引用は本や論文から引くようにしましょう。
生成AIは近年急速に進化していますが、文献情報のサーベイでは存在しない論文を提示するなど、もっともらしい嘘をつくことがあります。その文献が本当に存在するのか、必ず確かめましょう。
そもそも論文とは?
研究は、学術雑誌や学術講演などで論文という形で発表され、研究成果として認められます。 ひとくちに「論文」と言っても、じつはいくつかの種類があります。
論文の種類
| 種類 | どんなもの/特徴 |
|---|---|
| 原著論文 | 新規の研究成果や実験結果を報告する論文。背景・目的・方法・結果・考察・結論が包括的に書かれる。新規性があり、最も重視される論文。 |
| レビュー論文 | 既存の研究成果や文献を体系的に整理・総括し、研究動向や課題を示す。ページ数・引用文献数が膨大になりがち。一つの分野を包括的に知りたいときに有用。 |
| レター論文 | 簡潔なコメントや追加情報、あるいは新手法・改良点を速報的に報告する形式。数ページ程度のことが多く、元の原著論文も一緒に読むとよい。 |
| プロシーディングス (Proceedings) | 学会や国際会議で発表された研究内容をまとめたもの。会議発表の要旨や論文を集めたものを指すことが多い。最新動向を早期に知れるのが利点。 |
| 特集論文 | 特定のテーマや分野に特化して、複数の研究やレビューをまとめた特集号に掲載される論文。ゲストエディターが統括し、複数の研究者が寄稿することが多い。 |
| 学位論文 (卒論・修論・博論) | 課程の修了にあたり研究成果として提出する論文。通常は大学図書館に保管され、インターネット上で見られることもある。 |
論文の探し方
論文のアーカイブを調べる
次のアーカイブから関連する論文を探してみるとよいでしょう。そのとき、出版年などでフィルタすると、より適切な文献にたどり着けます。
- Google Scholar:scholar.google.com
- arXiv:arxiv.org
検索結果をより具体的にするために、こんな工夫を試してみましょう。
- 特定のフレーズを固定する:ダブルクオート
" "で囲む。例"cosmic rays" "zenith angle distribution" - 条件を絞り込む:複数条件を
ANDで組み合わせる。例cosmic rays AND "zenith angle distribution" AND simulation - 特定の年に限定する:左側の「年」で期間を絞る。
引用をたどる
興味のある論文を見つけたら、その引用文献を確認しましょう。引用された研究もさらに調べていくと、関連研究の全体像——いわばその分野の「地図」——が見えてきます。 たとえば「Cosmic Watch の詳細を調べたい」「宇宙線の天頂角分布の先行研究を調べたい」というときも、関連する一報を起点に引用をたどると、芋づる式に研究が広がっていきます。
加速キッチン内での先行研究を調べる
加速キッチンの中にも、参考になる先行研究があります。
📝 過去の発表・レポート 内部発表から学会発表のスライドまでが保存されています。査読されていないので内容には注意ですが、数年前まで活動していた中高生による研究内容なので、著者本人に聞きやすいのが利点です。 drive.google.com — 発表資料フォルダ生成AIで英語論文を読む
英語論文を読むことは、大学院生にとっても骨の折れる作業です。それでも、先行研究を知るためには避けて通れません。 近年は生成AIの登場で、読み書きともに日本語↔英語の翻訳を手早く行えるようになりました。 もちろんそのまま英語で読むに越したことはありませんが、気軽に読むためのツールとして活用してみましょう。 インターネットを検索すればたくさん出てきますが、たとえば——
ChatGPT — Paper Interpreter (Japanese) 論文のPDFをアップロードするかURLを入力すると、内容を日本語で分かりやすく説明してくれるGPT(あらかじめ英語論文の翻訳プロンプトを仕込んだもの)。 chatgpt.com Readable(有料) 英語のPDFファイルを、レイアウトを保ったまま日本語に翻訳してくれるサービス。 readable.jpこのほか、Gemini や Claude なども使えます。新しいツールが次々に登場するので、その都度よさそうなものを選んで活用しましょう。
AIが生成した文章は、Google翻訳のような直訳ツールに比べて意訳されることがあり、読みやすい反面ニュアンスを取り違えていることがあります。また、AIは翻訳すべき文章を一文まるごと飛ばすことも。読み込ませる文章が多くなると、後半がまったく反映されないこともあります。Google翻訳のような直訳ツールも併用し、元の文章も適宜チェックしましょう。
DOIで論文を探す
論文の隅っこに必ず書かれている番号は、DOI(Digital Object Identifier)と呼ばれるコードです。 電子文献と一対一に対応しています。DOIを使うメリットは、コードが恒久的に使われること。 ジャーナルのURLが変わっても、DOI検索なら番号は変わりません。
例として、田中さんが昨年、加速キッチンの取り組みについて発表した講演を見てみましょう。
https://doi.org/10.22323/1.444.1599 にアクセスすると、
https://pos.sissa.it/444/1599(プロシーディングスが載っているサイト)に移動できるはずです。
長く記録に残したい場合は、DOIで記述されたURLを載せておくと安心です。リンク切れを防げます。
参考リンク・出典
- 論文アーカイブ:Google Scholar/arXiv
- 日本語の学会誌:物理学会誌(日本物理学会)/天文月報(日本天文学会)
- 入門書:名古屋大学「宇宙線50の謎」/物理学選書『宇宙線』(小田稔 著)
- 学術文献の全体像(図2-1):大阪大学附属図書館
- 学会要旨の例:2024年 JpGU 高校生ポスター発表(O-08)
- 加速キッチンの発表資料:過去の発表・レポート(Google Drive)
- 英語論文を読むAIツール:ChatGPT Paper Interpreter (Japanese)/Readable
- DOIの例:doi.org/10.22323/1.444.1599(→ PoS 444, 1599)