月明かりのノルウェー北部、リンゲン山脈とフィヨルドの夜空に広がるオーロラ

エネルギーの回(以前の第3回)は、第4回になりました

音声の冒頭のテーマは、収録時の題です

RECIPE03

宇宙線は、どうやって見つかったのか

シャワーを作る宇宙からの「源」は、いったい何なのか。宇宙まで測りに行けない時代に、地上の観測だけで正体を推理していく。

話し手 かづお 聞き手 ふーか

写真:Ximonic (Simo Räsänen) / CC BY-SA 3.0(トリミング・縮小・加工)

この回のレシピ

地上に降ってくるシャワーはわかった。でも、それを作る宇宙からの「源」の1個は何なのか。宇宙まで測りに行けない時代、地上の観測だけで正体を推理していきます。検出器を数百メートル離してシャワーの広がりから元のエネルギーを見積もり、地球の磁場で曲がるかどうかで「ガンマ線か、電気を持った粒子か」を見分け、東と西のどちらから多く来るかで「プラスかマイナスか」まで突き止める。宇宙線研究が「地学っぽい」理由、そしてウミガメのスープと科学研究の話も。

調理時間
35:03
盛りつけ
9章・図12点・用語37語
つくる人
かづお + ふーか

おもな材料

VIDEO

動画でも見られます図解とアニメーションつき

第3回 宇宙線は、どうやって見つかったのか——地球の磁石が教えてくれた正体の動画のサムネイル
音声と同じお話に、図解とアニメーションをつけた動画です(約35分)。YouTube で開く

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かづおふーか点線=用語解説へ

CHAPTER01

前回のおさらい:シャワーを作る「源」は何?

ふーか

「加速キッチンの素粒子・宇宙の話」。聞き手のふーかです。

かづお

加速キッチンのかづおです。

ふーか

この番組では、宇宙線1や素粒子にまつわるお話をしていきます。今日のテーマは「宇宙線って、どれくらい降ってきているの?」です。前回はGM管2や霧箱3の話から、空気シャワー4というものがあった、というところまででした。空気シャワーのあと、宇宙線の研究はどう進んでいくんでしょうか?

かづお

そうですね。だいぶわかってはきたんですが、課題が1つ残っていました。今でいう大気シャワー、つまり地上に降ってくるものが何かはわかってきた。でも、そのシャワーを作り出しているものが宇宙から飛んできているはずで、それが今でいう一次宇宙線5ですね。

かづお

このシャワーを作る宇宙からの源が一体何なのかが、まだ全然わからない。ここが謎として残っていて、これを解き明かさないといけない、という状況でした。

ふーか

空気シャワーにはいろんな謎の粒子があって、鉛6で増える、という話があったことは覚えています。でも、その元をたどるって、どうやるんでしょうか? 方法が思いつかないんですが。

かづお

そうなんですよ。空気シャワーの粒子自体も謎で、当時はまだ見つかっていない粒子でした。ただ、第1回で水に検出器を入れて測った7という話がありましたよね。少なくとも、水を突き抜けてくることはわかっています。

かづお

そこから考えると、これは何かの荷電粒子8で、ガンマ線9ではなく、貫通力のとても高い荷電粒子です。そんなものは当時知られていませんが、未知の荷電粒子であることはわかっていました。

かづお

ただ、上から降ってきている源がガンマ線のようなものなのか、荷電粒子なのか、そもそも何なのかはわからない。それでも、とても大きなエネルギーのものが降ってきているはずだ、というのが1940年手前の状況です。

CHAPTER02

検出器を数百メートル離して、エネルギーを推定

かづお

1938年か39年ごろのことです。前に、検出器を三角形に置いて10同時に通るものを調べる実験がありましたよね。その検出器を遠ざけていったらどうなるか、という実験をすることになったんです。

ふーか

遠ざけるというのは、鉛の板をもっと上のほうに置いてみる、ということですか?

かづお

いえ、板は取り外してしまいます。板はシャワーを作る面白い実験でしたが、今見たいのは鉛の板でできるシャワーではなく、空気によって生まれるシャワーなので、板は外します。そして、この2つの検出器の距離を少しずつ変えていきました。

会議の場で話すピエール・オージェ(左、眼鏡の人物)とオットー・ハーン(右)(1959年)
FIG.01ピエール・オージェ(左)。1938年、2台の検出器を最大約300mまで離しても同時に鳴ることを見つけ、大気の中で起きる巨大なシャワーを発見した(写真は1959年、右はオットー・ハーン)。画像:Willy Pragher(Landesarchiv Baden-Württemberg) / CC BY 3.0 DE

かづお

例えば最初は10センチの距離でAとBの検出器を置き、それを20センチ、30センチ、40センチと離していきます。どこまで離せばいいか探りながら、最終的に当時は数百メートルまで離して実験11をしました。

ふーか

空気シャワーの「シャワー」は、まとまって降ってくるからそう呼ぶんだ、という話が前回ありましたよね。そのシャワーがどれくらい広がっているかを調べよう、ということなんですかね。

かづお

まさにそうです。これは今の最先端の宇宙線研究でも使われている方法です。シャワーが大きくて粒子がたくさんできているなら、それを作るだけのエネルギーが源にあったはずです。つまり、シャワーの大きさ、どれくらいの数が降ってきたかから、最初の粒子のエネルギーを推定できるんです。

かづお

今でも、これまで見つかっていない高いエネルギーの宇宙線を探すために、もっと広い範囲にもっとたくさんの検出器を並べて研究しています。その走りとなる実験が、2つの検出器を離して行うものでした。数百メートルというのは、すごい距離だなと私は思います。目的は、まず源の粒子のエネルギーを推定することでした。

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FIG.02検出器の間隔とエネルギーを変えてみよう:大きなシャワーほど、遠く離れた検出器まで同時に鳴る。

ふーか

その方法で、元の粒子のエネルギーは実際に推定できたんでしょうか?

かづお

はい。前回コインシデンス12という話がありましたが、2つがほぼ同時に反応したときは、1つのシャワーの宇宙線だと考えます。

かづお

ただ、全く別の放射線がたまたま2つをほぼ同時に通過することも十分ありえます。そこで、偶然よりもどれくらい多いかを測っていくわけです。

かづお

やってみると、間隔が5センチのときは1時間あたり数百回、これは検出器のサイズによりますが、当時の検出器でそれくらい測れました。

かづお

150メートルまで離すと1時間に4回、300メートル離すと1時間に1.5回測れました。もちろん、どれくらいの時間差なら「同時」とするかにもよります。

かづお

実験の結果、どう考えても偶然より多い数の宇宙線が測れて、その量から宇宙線のエネルギーを推定することができました。

ふーか

じゃあ、推定できたエネルギーはどれくらいの大きさだったんですか?

かづお

とても大きなエネルギーの宇宙線が来たときは、少なくとも10の15乗エレクトロンボルト、言い換えると1ペタ13エレクトロンボルト14というエネルギーの宇宙線が来ているらしい、ということがわかりました。

ふーか

謎の単位が突然出てきましたね(笑)。

かづお

そうですね。

ふーか

このエレクトロンボルトというのは、どういう単位なんですか?

かづお

これは今日話してもいいんですが、キリがなくなりそうなので、今日のところは「めちゃくちゃ大きいエネルギー」だと思ってください。

ふーか

じゃあ、いったん忘れて、すごく大きいエネルギーを持った粒子が来ているとわかった、ということですね。

かづお

そうです。正体はまだわからないけれど、宇宙空間からものすごいエネルギーのものが来ている、ということです。

CHAPTER03

ガンマ線か、電気を持った粒子か(クーロン力・ローレンツ力)

かづお

当時は説が2つありました。1つは、ものすごく大きいエネルギーのガンマ線が大気に当たって、シャワー状に何かが降ってきているという説。もう1つは、ものすごいエネルギーの荷電粒子が来ているという説です。このどちらなのか、当時みなさん気になっていて、なんとか明らかにしようとしていたわけです。

ふーか

ガンマ線と荷電粒子の比較が何度か出てきますが、どちらかを特定するには、どんな情報があればいいんでしょう?

かづお

これ、逆に聞いてみたくなりました。ガンマ線と荷電粒子で、どんな違いがありそうですか? その特徴ですよね。

ふーか

さっき、水に沈めたときに水を通ってくる粒子は荷電粒子だ、とかづお先生が言っていたので、まず水を通り抜けられるかどうかを比べるのが、うまくいきそうな気がします。

かづお

確かに、うまくいきそうですね。ところが問題があって、一次宇宙線は宇宙空間にしか飛んでいなくて、地上にはないんです。

かづお

他に、どんな違いがありそうですか?

ふーか

名前がヒントかなと思います。荷電粒子ということは電気的な特性を持っているのだと思うので、その粒子の持っている電気がどういう電気なのかがわかれば、特定できそうな気がします。

かづお

そうですね。縛りとしては、地上で二次宇宙線15、つまり大気シャワーを測るしかありません。その大気シャワーから、例えば電気を持っているかいないか、という情報を考えられないかな、ということなんです。

かづお

粒子が電気の性質を持っていると、2つの変化がありうると思います。1つ目は、例えばプラスの粒子が通っているとき、近くにマイナスに帯電したものがあれば引き寄せられる、ということです。これがクーロン力16ですよね。

ふーか

電気同士で引きつけあったり反発しあったりする、電気的な特性を持つもの同士の力、というやつですよね。

かづお

そうそう。で、もう1つ力があるんですが。

ふーか

もう1つ……。前のお話のときに磁石の話が出てきた気がするんですが、磁石の力が関係していますか?

ふーか

電気といえば「光は電磁波だ」という電磁波17の言葉もあるので、磁石が関係しているのかなと予想できました。

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FIG.03ガンマ線か、電気を持った粒子か。磁場の中を通すと、電気を持った粒子だけが曲がり、プラスとマイナスでは曲がる向きが逆になる。

かづお

はい。高校などで習うと思いますが、ローレンツ力18といいます。例えば、プラスの粒子がこちらに飛んでいて、そこに磁場19がこう走っていると、こんなふうに力が働く、というやつです。

かづお

ふーかさんも、当時手の形で覚えましたか?

フレミングの左手の法則。親指が力(F)、人差し指が磁場(B)、中指が電流(I)の向き
FIG.04フレミングの左手の法則。中指が電流(I)、人差し指が磁場(B)、親指が力(F)。中指から読むと「電・磁・力」、親指から読むと「FBI」。画像:Jfmelero / CC BY-SA 4.0(画像形式の変換)

ふーか

はい。右ねじとか、フレミングの法則20とかがあった気がします。

CHAPTER04

地磁気で曲がる? 船で測った緯度効果

かづお

はい、そんなわけで磁場です。電荷を持っているものが磁場のかかったところを進むと、その2つの軸とは違う方向に力がかかって曲がっていきます。ガンマ線ではなく荷電粒子なら、曲がっているはずだ、ということがわかるわけです。

太陽風を受けて変形した地球の磁気圏の想像図。磁力線が地球をとり囲んでいる
FIG.05太陽風を受ける地球の磁気圏(NASA の想像図)。地球は大きな磁石で、まわりを磁力線がとりまいている。宇宙から来た粒子が電気を持っていれば、この磁場で曲げられるはず。画像:NASA / Public domain

かづお

地球には地磁気21があるので、地磁気の影響を受けるなら、宇宙線はどこでも同じように降ってはこないはずです。緯度によって、入ってき方が違うだろうと考えられます。

かづお

南極や北極のように磁力線22が地面にほとんど垂直に入り込む場所と、赤道近くのように磁力線が地面に水平に走っている場所では、違いが出るだろうということです。

かづお

磁力線が入り込んでいる場所では、粒子は磁力線に巻きつきながら地面に来るでしょう。一方、磁力線が水平に走っている赤道付近では、巻きついてしまって地面に入り込めなくなります。簡単に言うと、赤道付近は宇宙線があまり降ってこなくて、極地に行くと降ってくる量が増えるだろう、と考えたわけです。

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FIG.06測る場所の緯度を変えてみよう:赤道の上では、エネルギーの小さい宇宙線は地磁気に追い返されて入ってこられない。

ふーか

地球を棒磁石に見立てると、NやSの端っこでは多くて、NとSの境目の赤道あたりでは来る量が少ない、と予想した、ということですね。

ジャワ島のバンドン工科大学で物理学の教授をしていたころのヤコブ・クレイ(1924年ごろ)
FIG.07ヤコブ・クレイ(1924年ごろ)。ジャワ島のバンドン工科大学で教えていた。1927年、ジャワからオランダへ帰る船の上で宇宙線を測り、赤道の近くで1割ほど少なくなることに気づいた。画像:Unknown author / Public domain

かづお

そうです。当時これを予想してやったのかというと、たまたまだったのかもしれません。でも実際に、1927年ごろに船に検出器を乗せて測った23例があります。ジャワとイタリアの間を結ぶ船で測ったところ、赤道付近を通るときに1割減った、という研究がありました。

オランダとジャワを結んでいたロッテルダム・ロイド社の客船スラマット号を描いた当時の絵はがき
FIG.08当時オランダとジャワ島を結んでいた客船の1つ、スラマット号(当時の絵はがき)。ヨーロッパとジャワの間の船旅では、赤道を越える。画像:Unknown author(KITLV collection, Leiden University Libraries) / CC BY 4.0(縮小)

かづお

これは揉めました。1割程度の違いだと、当時はほかの要素もいろいろ考えられます。環境の要因かもしれないし、何かの系統誤差24かもしれない。赤道付近だから磁場の影響で減ったという説と、たまたまだという説で、学会などで熱い議論が行われていました。

ふーか

変化がもっと大きければ「そうかも」と思えますが、あまり変化がないと、いろんな説が出てきそうですよね。

ふーか

それでも、どうして「荷電粒子だから赤道に近いと少なくなるはず」という説が、通説として正しいと認められているんでしょうか?

CHAPTER05

8台の検出器で世界69か所。宇宙線研究は「地学っぽい」

かづお

ということで、同じ検出器を8台用意して8つの観測隊に持たせ、緯度の違うところに行って測りました。緯度だけでなく標高も関係するので、いろんな標高でも測っています。

宇宙線の測定装置を前にしたアーサー・コンプトン(左)と大学院生のルイス・アルバレス(右)(1933年)
FIG.09宇宙線の測定装置とアーサー・コンプトン(左)、大学院生のルイス・アルバレス(右)。1933年。コンプトンは同じ型の検出器を8つの観測隊に持たせて、世界69か所で測った。アルバレスはこの年、メキシコシティで東西効果も測っている。画像:Lawrence Berkeley National Laboratory(Photolab) / Public domain

かづお

全部で世界の69か所で測って25、地球上のいろんなところの宇宙線のマップのようなものを作ったんです。

ふーか

検出器の台数は少ないなと思いましたが、その少ない台数でいろんなところを回って測ったんですね。

かづお

現在に生きている私としては、理由が2つあると思います。1つは、今なら数百台作って世界中にばらまく、という私たちがやっているようなやり方ができますが、当時は安定して動く検出器を量産するのが難しかっただろう、ということです。

かづお

もう1つは、同じ検出器で測ることで系統誤差を抑えられる、ということだと個人的には思います。さまざまな検出器ではなく、同じ型の検出器を複数の場所で使うことで、想定できないような系統誤差も抑えられたのかなと。

かづお

これは大変です。今なら宅配便で国際便にして送れば、快適な部屋で待っているだけでいろんなところで測れるかもしれません。でも当時はそうはいかないので、観測隊を用意して、みんなそれぞれの場所に行って測ったわけです。大変だけれど、大事な実験だったと思います。

ふーか

昔の物理学者のみなさんは、過酷な実験が多いんですね。標高や場所を変えるには、水に沈めるだけでなく、気球で寒いところに行ったり、北極や南極の近くまで行ったり、高い山に登ったりしなければいけません。体力がないとやっていけない研究が多いですね。

かづお

だから、宇宙線の研究はやや独特だと思っています。素粒子26研究と、ジオサイエンス、つまり地学の分野との境界領域で、当時すでにやや学際的27な研究だったんじゃないかなと思います。

かづお

素粒子研究自体は、キュリー夫人28などが放射線を見つけたあと、それをどう測ればいいかまだわかっていない黎明期がありました。そのあと加速器29が作られるようになり、素粒子の研究はだんだん加速器が主流の世界になっていきます。

かづお

ところが最初は加速器がなかったので、放射線を測るには自然の放射線を相手にするしかなく、宇宙線がとても大事でした。ただ、宇宙線は自然のものなので、そのあとに続く加速器研究とはやや違って、我々が調整することができません。欲しいものがあれば、現場に行くしかないんです。

かづお

だから、宇宙線の源を知りたければ気球に乗って上に行かなければいけないし、降ってくる場所で違うのではと思えば極地まで行かなければいけません。当時の素粒子研究は、素粒子研究でありながら、地学っぽいジオサイエンスの要素がかなりありました。

雪の積もったチャカルタヤ宇宙物理観測所の門。ボリビアのアンデス山中、標高約5,200 mにある宇宙線の観測所
FIG.10ボリビアのチャカルタヤ山にある宇宙線の観測所(標高約5,200m)。宇宙線の観測所は、高い山の上や砂漠、なにもない高原にあることが多い。画像:DiverDave / CC BY-SA 3.0(縮小)

かづお

これは今の宇宙線研究も結構そうだと思っていて、ぜひどこかの回でお話ししたいのですが、宇宙線研究をしている人は、ちょっと地学っぽいなと個人的に思います。みんな、何もない砂漠や何もない島に行きます。

かづお

空気が究極的にきれいで、光害30(光の害と書きます)のない、全く光がないようなところです。高い山で空気が薄いところに行くこともあります。そうしたところで実際に観測をする、地学っぽい大変さの多い分野かなと思います。

ふーか

本題に戻すと、宇宙線の降ってくる量のマップが作れた。それによって、やっと宇宙線は荷電粒子だと言えるようになった、ということですかね。

CHAPTER06

プラスかマイナスか:東西効果

かづお

そうですね。もう1つ言うと、荷電粒子であることまではわかりましたが、プラスかマイナスかまではここではわかっていません。ただ、磁場をうまく使えば、宇宙空間を飛び回っているのが主にプラスなのかマイナスなのかまで、考えることができます。

ふーか

地球を磁石だとしたとき、N極に近づくかS極に近づくかで、電荷がプラスかマイナスかわかりそうな気もしますが、そういうことですか?

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FIG.11プラスとマイナスを切りかえてみよう:地磁気で曲げられるので、プラスなら西の空から、マイナスなら東の空から多く届く。

かづお

まさにそうです。これを東西効果31といいます。当時はプラスかマイナスかわからない状況でした。

かづお

仮にプラスだとすると、磁場に巻きつくときにグーッと曲がるので、西側から入ってくるほうが入りやすく、逆に東側からだと抜けてしまう、ということが起こりえます。簡単に言うと、東から来る宇宙線の量と西から来る宇宙線の量を比較すれば、これがわかるということです。

ふーか

じゃあ、単純に北極のほうが多いとか南極のほうが多いとかではなく、もう少し厳密に、1本の磁力線に対して、東西のどちら回りで来るものが多いかを考える、ということですかね。

かづお

そうそうそう。

ふーか

いやー、難しいですね。その難しい過程を経て、やっと、荷電粒子の「荷電」がプラスかマイナスかがわかったんですね。

かづお

そうなんです。ある人が、標高が高くて測りやすいところで測りました。東西効果が一番大きく出るのは、磁場が地面に水平に走っている赤道付近です。そこで1933年にメキシコシティ32の標高2000メートルぐらいのところで測り、西のほうが多い、という結論が出ました。

かづお

西のほうが多いということは、基本的にプラスの粒子が降ってきているということです。これは今につながる非常に重要な結果でした。電子や陽子33など、我々が知っている粒子の中でプラスのものとなると、候補を絞れます。

かづお

のちに、主な成分は陽子で、あとはヘリウムなどの重い原子核が降っているとわかりますが、その示唆を与えてくれました。つまり、とても高いエネルギーの陽子が降ってきているのではないか、ということが、まだ直接測れない段階でわかったんです。

かづお

当時は、宇宙空間に何かを飛ばして測ることもできず、地上で、一次宇宙線が二次宇宙線5になってシャワーになったあとのものしか測れませんでした。それにもかかわらず、宇宙空間を飛び回っている粒子がどんなエネルギーで、どんなものなのかがわかった。とても大事な研究だったと思います。

CHAPTER07

行けないものを知る科学

ふーか

現地に行かなくても、わからないものを特定してしまう、科学のすごさですね。

かづお

宇宙のような広大なものを相手にするとき、我々はそこに行けません。宇宙線も含め、直接行って調べたり見聞きしたりできないものを、どう工夫して想像し、そこに科学的な結論を持ってくるか。

かづお

それにみんながいかに頑張ってきたかという歴史が、この分野を作っているなと強く思います。

かづお

今は図鑑を見ると、「なんちゃら星は何光年34先」と当たり前のように書いてあって、みんな「へー、そうなんだ」と思うでしょう。でも、10光年先と書いてあったとして、なぜ10光年なのかと考えると、決してトリビアル35ではないんです。

かづお

宇宙線も同じです。今は、ネットなどで調べると、宇宙線は陽子がたくさん飛び交っていて、これぐらいのエネルギーで、こういうメカニズムでできている、と出てきて、「へー」と思うかもしれません。でも、それをどうやって知ったのかというと、実は結構泥臭いんです。

かづお

今話した東西効果を使ったり、シャワーの大きさからエネルギーを推定したり、いろんな角度の情報を組み合わせて、少しずつ明らかになってきました。今ならインターネットですぐ出てくることですが、人類の知がそこに到達するまでは、かなり泥臭かったとわかります。

ふーか

行けないくらい遠いところのものを、それまでの知識で想像して描いたものが、現実でちゃんと起こっている。目に見えないくらい小さいものも、同じように実験結果を積み重ねて「こうじゃないか」と想像したもので、実際に全部説明が成立する。それはすごいですよね。

かづお

これは、成立しなくなることも多々あるんです。今日話した話も、前回話した話もそうですが、できすぎている話がきっと多いはずで、答えに向かって進みすぎています。

CHAPTER08

ウミガメのスープと、研究の遠回り

グレートバリアリーフの海を泳ぐアオウミガメ
FIG.12アオウミガメ。「ウミガメのスープ」は、「はい」か「いいえ」で答えられる質問だけで、ふしぎな話の真相を推理するクイズ。画像:Ppmh21 / CC BY-SA 4.0(縮小)

かづお

例えば、ふーかさんはウミガメのスープ36って知っていますか?

ふーか

はい、知っています。ざっくりしたヒントを少しずつ積み重ねて、真相に迫るクイズですよね。

かづお

そうそう。ルールも知っていますか?

ふーか

「はい」か「いいえ」で答えられる質問しかできないんでしたっけ。

かづお

そうそう。どう考えても答えにたどり着けなさそうな問題です。ウミガメのスープなら、「ある老人がスープを飲んで泣いてしまいました。なぜでしょう」という、わかるわけがない問題を、「はい」か「いいえ」で順番に聞いていって、少しずつ答えにたどり着いていきます。

かづお

例えば30個、40個と質問したとして、その中には答えと全然関係のない質問もありますし、こういうことだろうとミスリードされて、答えから離れていく質問もしてしまいます。でも聞いていくうちに、ずれてきている、つじつまが合わなくなってきている、と気づきます。

かづお

きっとこういう旅行をしたからだ、と考えても、それだとつじつまが合わない。そこでいったん戻って別の質問をしてみる、ということを繰り返して、最終的に答えにたどり着くゲームです。これは「宇宙線の源は何だろう」という話とすごく近いなと思います。

かづお

今日は、関係のない質問を全部すっ飛ばしているんですよね。でも本来は、すっ飛ばしてはいけなくて——

ふーか

私たちは答えを知っているので、「次にきっとこんな実験が行われたはず」と推測して、話を組み立てられます。

ふーか

でも当時の人からしてみれば、無駄な実験をした人も、的外れな実験をした人も、全然違う答えに行きそうになった人もいたでしょう。それでも、自分の実験がどう働くかわからないけれどやってみる、ということも結構あったんでしょうね。

かづお

例えば第1回で話した水に沈めてみる7実験は、本来は地上の放射線を防ぐ意味でやったのに、全然減りませんでした。水を貫通してくるものがある、何だろう、と宇宙線に行き着きました。脱線したことで方向が見出せることもあります。

かづお

さっき、ガンマ線が宇宙空間から降ってきているのか、荷電粒子が来ているのかという話がありましたが、今日は紹介しないものの、ガンマ線説を支える実験もたくさんあったはずです。

かづお

だからこそ、ガンマ線説を主張する人が「こういう理由でガンマ線説が有力だ」と言い、それを覆すにはどんな実験をすればいいか、というヒントにもなったでしょう。

かづお

例えば磁場を使ってみようというのも、ゼロから思いついたわけではありません。ガンマ線説を唱える人たちの説を参考にしたり、その説をもとに、こうなら荷電粒子説が組み立てられる、と考えたりしたのだと思います。

かづお

一見無駄に見えても、当時の人にとっても今にとっても、全部無駄ではなくて、誰も無駄とは思っていないんです。

かづお

ただ、歴史として学ぶ我々は、そういう部分を結構カットしてしまっていて、なかなか見る機会がありません。もちろん全ての論文を読む時間はないので、それでいいんですが、そういう部分もあると認識することは大事だと思います。

かづお

もう1つ言えるのは、今日話した東西効果や、検出器を離して宇宙線のエネルギーを推定する方法は、まさに加速キッチンの中高生が取り組んでいる研究テーマだということです。

かづお

こうした研究に取り組むときに、自分の研究につながる歴史的な先行研究37をきちんとキャッチアップして、よく理解することはすごく大事です。今日紹介したものだけでなく、いろんな論文を調べてみるのは、とても素敵なことだと思います。

CHAPTER09

エンディング

ふーか

かづお先生、ありがとうございました。

かづお

ありがとうございました。

ふーか

この番組では、みなさんからの質問を募集しています。概要欄のフォームから送ってください。番組の中でお答えします。加速キッチンでは、中学生・高校生に宇宙線の検出器を無料で貸し出しています。気になった人は、加速キッチンのホームページを見てみてください。番組をフォローしておくと、新しい回のお知らせが届きます。次回は「その1個に、どれだけのエネルギーがあるのか」です。お相手は私、ふーかと——

かづお

かづおでした。

ふーか

またねー。

GLOSSARY

用語集本文の点線のことばを、もう少しくわしく

  1. 01

    宇宙線うちゅうせん

    宇宙から地球に降りそそぐ、とても大きなエネルギーをもった粒子のこと。大気にぶつかると新しい粒子のシャワーを作り、その一部は地上にいる私たちの体もいつも通り抜けています。「線」とついていますが、正体は光ではなく粒子です。

    ↩

  2. 02

    GM管(ガイガー=ミュラー計数管)じーえむかん

    放射線が1個通るたびに「カチッ」と電気のパルスを出す検出器。1928年にガイガーとミュラーが完成させ、放射線を1個ずつ数えて、通ったタイミングもわかるようになりました。第2回にくわしく出てきます。

    ↩

  3. 03

    霧箱きりばこ

    アルコールなどの蒸気がいまにも霧になりそうな状態の箱に放射線が入ると、通った道すじにそって小さな霧の粒ができ、白い線(飛跡)として見える装置。イギリスのC・T・R・ウィルソンが1911年に初めて放射線の飛跡を写しました。ドライアイスとアルコールで、家や学校でも作れます。

    ↩

  4. 04

    空気シャワーくうきしゃわー

    宇宙から来た1個の粒子が大気の原子にぶつかって、たくさんの新しい粒子を次々に作り、シャワーのように広がって地上に降ってくる現象(大気シャワーとも言います)。シャワーが大きい(粒子の数が多く、広く広がる)ほど、元の1個のエネルギーが大きかったことがわかります。

    ↩

  5. 05

    一次宇宙線いちじうちゅうせん

    宇宙から飛んできて、まだ大気にぶつかる前の宇宙線。これが大気にぶつかって作る粒子(ミューオンなど)を二次宇宙線と呼びます。1930年代には一次宇宙線を直接測る方法がなく、地上に届く二次宇宙線から正体を推理するしかありませんでした。いまは、ほとんどが陽子で、ヘリウムなどの原子核もふくむことがわかっています。

    ↩1↩2

  6. 06

    鉛の板(放射線の遮蔽)なまり

    鉛は重くて密度が高いので、放射線をさえぎる(遮蔽する)材料としてよく使われます。ただ、エネルギーの高い粒子が鉛に入ると、中で新しい粒子を次々に作ることがあり、薄い鉛ではかえって粒子の数が増えることもあります。

    ↩

  7. 07

    水に沈める実験(パチーニ)ぱちーに

    イタリアの物理学者ドメニコ・パチーニは1911年、検電器を海や湖の水の中(約3m)に沈めて測りました。地面から遠い海の上でも放射線があり、水に沈めると約20%減りました(番組では「全然減りませんでした」と話していますが、実際には減っていました)。つまり、地面ではなく上のほうから来る放射線がある、とパチーニは考えました。論文の英訳が公開されています。

    ↩1↩2

  8. 08

    荷電粒子かでんりゅうし

    プラスかマイナスの電気(電荷)を持った粒子のこと。陽子(プラス)、電子(マイナス)、ミューオン、原子核などがそうで、電場や磁場から力を受けて進む向きが変わります。光(ガンマ線)は電気を持たないので荷電粒子ではありません。番組では「水を通り抜けたから荷電粒子」と話していますが、荷電粒子だとわかったのは、1929年のボーテとコールヘルスターの実験(第2回のコインシデンス)からです(ガンマ線も水を通り抜けます)。貫通力の高いその粒子の正体はミューオンで、1936〜1937年に見つかり、オージェの実験の1938年にはもう知られていました。

    ↩

  9. 09

    ガンマ線がんません

    とてもエネルギーの高い光(電磁波)。電気を持っていないので、磁場の中でも曲がりません。1930年代には、宇宙から来る源は「とても強いガンマ線」だという説もありました。いまでは、宇宙から来るガンマ線は宇宙線全体のごく一部だとわかっています。

    ↩

  10. 10

    ロッシの実験(三角形のGM管と鉛の板)ろっし

    イタリアの物理学者ブルーノ・ロッシが1932〜1933年に発表した実験。一直線に並ばないように3本のGM管を三角形に置き、上にのせる鉛の板を厚くしていくと、3本が同時に鳴る回数が厚さ1〜2cmくらいまでは増え、それより厚いと減っていきました。このグラフは「ロッシ曲線」と呼ばれ、鉛の中で1個の粒子からたくさんの粒子(シャワー)が生まれていることを示していました。

    ↩

  11. 11

    オージェの実験(検出器を離して測る)おーじぇ

    フランスの物理学者ピエール・オージェたちは1938年、2台の検出器の間隔を数mから約300mまで広げても、同時に鳴ることがあるのを見つけました(約300m離して測ったのは、スイス・アルプスのユングフラウヨッホ、標高3,450mの研究所)。大気の中で起きる、とても大きなシャワー(広がった空気シャワー)の発見で、シャワーの粒子の数から、元の1個は少なくとも10¹⁵電子ボルト(1ペタ電子ボルト)くらいと見積もりました。いまアルゼンチンにある世界最大の宇宙線観測所「ピエール・オージェ観測所」は、彼の名前にちなんでいます(同じ1938年に、ドイツのコールヘルスターたちも、離して置いた検出器が同時に鳴ることを報告しました)。なお、番組ではオージェの実験(1938年)を先に紹介していますが、年代順では、このあとに出てくる緯度効果(1927〜1933年)と東西効果(1933年)のほうが先です。

    ↩

  12. 12

    コインシデンス(同時計数)こいんしでんす

    離れた2つ以上の検出器が「同時に」反応したときだけ数える方法。同じ粒子(や同じシャワー)が両方を通ったことがわかります。ただし、関係のない粒子が「たまたま」同時に通ることもあるので、それ(偶然の同時計数)よりどれだけ多いかを調べます。第2回にくわしく出てきます。

    ↩

  13. 13

    ペタ(P)ぺた

    10¹⁵(1000兆)倍を表す、単位の前につける記号。キロ(10³)、メガ(10⁶)、ギガ(10⁹)、テラ(10¹²)の次がペタで、その次がエクサ(10¹⁸)です。1ペタ電子ボルト=10¹⁵電子ボルトです。

    ↩

  14. 14

    電子ボルト(eV・エレクトロンボルト)でんしぼると

    電子1個を1ボルトの電圧で加速したときに得るエネルギー。1eV=約1.6×10⁻¹⁹ジュールととても小さく、素粒子や原子の世界で使われます。番組では「エレクトロンボルト」と呼んでいます。くわしくは第4回で。

    ↩

  15. 15

    二次宇宙線にじうちゅうせん

    宇宙から来た一次宇宙線が、大気の原子核にぶつかって生まれた粒子(おもにミューオン・電子・中性子など)。地上に届いて測れるのは、ほとんどがこの二次宇宙線です。1個の一次宇宙線のエネルギーが、たくさんの二次宇宙線に分けられるので、一次宇宙線のほうが、1個あたりのエネルギーは大きくなります。

    ↩

  16. 16

    クーロン力くーろんりょく

    電気を持ったもの同士にはたらく力。プラスとマイナスは引きつけあい、プラス同士・マイナス同士は反発しあいます。距離が2倍になると、力は4分の1になります。18世紀にフランスのクーロンが測りました。

    ↩

  17. 17

    電磁波でんじは

    電場と磁場の振動が、波になって伝わっていくもの。目に見える光も、電波、赤外線、紫外線、X線、ガンマ線も、みんな電磁波の仲間で、ちがうのは波長(エネルギー)だけです。電気と磁気が深く結びついていることを示しています。

    ↩

  18. 18

    ローレンツ力ろーれんつりょく

    電気を持った粒子が磁場の中を動くとき、進む向きと磁場の向きの両方に直角な向きにはたらく力。力が進む向きと直角なので、粒子は速さを変えずに曲がっていきます。プラスとマイナスでは曲がる向きが逆になり、勢い(運動量)の大きい粒子ほど曲がりにくくなります。電気を持たないガンマ線は曲がりません。

    ↩

  19. 19

    磁場じば

    磁石のまわりや電流のまわりにできる、磁気の力がはたらく空間(磁界とも言います)。電気を持った粒子は、磁場の中を通ると進む向きが曲げられます(ローレンツ力)。第2回では、霧箱に磁石をあてて粒子を見分ける話が出てきました。

    ↩

  20. 20

    フレミングの左手の法則ふれみんぐのひだりてのほうそく

    磁場の中を流れる電流(プラスの電気の流れ)が受ける力の向きを、左手で表す覚え方。左手の中指・人差し指・親指をたがいに直角に開き、中指を電流、人差し指を磁場の向きに合わせると、親指が力の向きになります。中指から順に「電・磁・力」、親指から順に F(力)・B(磁場)・I(電流)で「FBI」と覚える人もいます。マイナスの粒子は電流の向きが進む向きと逆になるので、曲がる向きも逆になります。

    ↩

  21. 21

    地磁気ちじき

    地球が持っている磁場。地球全体が大きな棒磁石のようになっていて、方位磁針が北を指すのはこのためです(北極の近くに磁石のS極があります)。宇宙から来る電気を持った粒子は、地磁気によって進む向きを曲げられます。オーロラは、太陽から来た粒子が地磁気にそって極地方の大気に入り、光る現象です。

    ↩

  22. 22

    磁力線じりょくせん

    磁場の向きをつないで描いた線。地球の場合、北極・南極の近くでは地面にほぼ垂直に入り、赤道の近くでは地面と平行に走ります。電気を持った粒子は、磁力線にそう向きには力を受けずに進めますが、磁力線を横切ろうとすると曲げられます(エネルギーの低いものほど大きく曲がり、とても低いものは磁力線に巻きつくように進みます)。そのため極の近くでは、エネルギーの低いものも磁力線にそって大気まで入ってこられますが、赤道の近くでは磁力線を横切らなければならないので、エネルギーの低いものは曲げられて追い返されてしまいます。

    ↩

  23. 23

    緯度効果(クレイの船の観測)いどこうか

    宇宙線の量が緯度によってちがう現象。オランダの物理学者ヤコブ・クレイは1927年、オランダ領東インド(いまのインドネシア)のジャワ島からヨーロッパ(イタリアのジェノバ経由でオランダ)へ向かう船の上で測り、赤道の近くで宇宙線が1割ほど少なくなることを見つけました。アメリカのミリカンは「緯度効果はない」と反論し、論争になりました。

    ↩

  24. 24

    系統誤差けいとうごさ

    測定の結果が、いつも同じ向きにずれてしまう誤差。たとえば検出器ごとのくせや、温度・気圧のちがいなどで起きます。何回もくり返し測ってもへらせないので、同じ検出器で測る、条件をそろえる、別の方法でも確かめる、といった工夫が大切です。

    ↩

  25. 25

    コンプトンの世界調査こんぷとん

    アメリカの物理学者アーサー・コンプトン(1927年ノーベル物理学賞)は1932年、同じ型の検出器を8つの観測隊に持たせて、北極に近い地方から南アメリカ、高い山の上まで、世界69か所で宇宙線を測りました。その結果、赤道の近くで少なくなる緯度効果がはっきり確かめられ、宇宙線の元の多くが電気を持った粒子であることがわかりました。

    ↩

  26. 26

    素粒子そりゅうし

    これ以上分けられない、物質をつくるいちばん小さな部品のこと。電子やクォーク、ミューオン、ニュートリノなどがあります。

    ↩

  27. 27

    学際的がくさいてき

    いくつかの学問の分野にまたがっていること。宇宙線の研究は、素粒子の物理と、地球の磁場や大気を調べる地球科学(ジオサイエンス)の両方にまたがっています。

    ↩

  28. 28

    キュリー夫人(マリ・キュリー)きゅりーふじん

    放射能の研究で知られる科学者。1896年にベクレルがウランから出る放射線を見つけ、1898年にキュリー夫妻がポロニウムとラジウムを発見しました。検電器の「なぞの放電」が話題になったのは、まさにその直後の時代です。

    ↩

  29. 29

    加速器かそくき

    電場を使って電子や陽子などの粒子を光の速さ近くまで加速し、ぶつけて調べる装置。1930年代から作られはじめ、1950年代ごろからは素粒子研究の主役になりました。それまでは、自然から降ってくる宇宙線が「高いエネルギーの粒子」の唯一の源でした。

    ↩

  30. 30

    光害ひかりがい・こうがい

    街の明かりなど、人工の光が夜空を明るくしてしまい、星の観測などのじゃまになること。宇宙線の観測でも、大気がかすかに光るのをとらえる望遠鏡(大気蛍光望遠鏡)などは、まわりに光がまったくない砂漠や高原に置かれます。

    ↩

  31. 31

    東西効果とうざいこうか

    赤道の近くで、宇宙線が西の空から来るほうが東の空から来るより多い現象。プラスの電気を持った粒子は、地磁気で東向きに曲げられるので、西から入ってくる道すじのほうが地上まで届きやすくなります(マイナスなら逆に東から多くなります)。この効果から、宇宙線の元はおもにプラスの電気を持った粒子だとわかりました。1930年にロッシが予言し、1933年にメキシコシティの2つのグループと、エリトリアで測ったロッシが確かめました。

    ↩

  32. 32

    メキシコシティでの観測(1933年)めきしこしてぃ

    東西効果は、赤道に近く、標高が高い(大気が薄い)ところほど大きく出ます。1933年、アメリカのトーマス・ジョンソン、そしてルイス・アルバレス(のちの1968年ノーベル物理学賞)とコンプトンの組が、それぞれ別々に、標高約2,240m(番組では「2000mぐらい」)のメキシコシティで、検出器を東と西に傾けて測り、西から来る宇宙線のほうが多いことを報告しました。メキシコシティは北緯約19度で、赤道の真上ではありませんが、ヨーロッパやアメリカの多くの研究所より赤道に近く、標高も高いので、測りやすい場所でした。

    ↩

  33. 33

    陽子ようし

    原子核をつくる、プラスの電気を持った粒子。水素の原子核は陽子1個です。宇宙から来る一次宇宙線の約9割は陽子で、残りの多くはヘリウムの原子核(陽子2個と中性子2個)、ほかに少しだけ、もっと重い原子核や電子がふくまれています。一次宇宙線のほとんどが陽子だと確かめられたのは、1941年ごろの、気球で上空まで検出器を上げた実験です(東西効果でわかったのは「プラスの粒子が多い」というところまで)。

    ↩

  34. 34

    光年こうねん

    光が1年かかって進む距離(約9兆4600億km)。時間ではなく距離の単位です。太陽のつぎに近い恒星(プロキシマ・ケンタウリ)までが約4.2光年。星までの距離は直接ははかれないので、年周視差や変光星など、いろいろな方法を組み合わせて決めています。

    ↩

  35. 35

    トリビアルとりびある

    英語の trivial で、「当たり前」「わかりきっている」という意味。研究者がよく使う言葉です。「トリビアルではない」は、「当たり前に見えて、じつは簡単にはわからない」ということ。

    ↩

  36. 36

    ウミガメのスープ(シチュエーションパズル)うみがめのすーぷ

    出題者が出したふしぎな話の真相を、「はい」か「いいえ」で答えられる質問だけをくり返して推理するクイズ。有名な問題に、レストランでウミガメのスープを飲んだ男の話があり、このクイズの呼び名になりました。答えから遠い質問や、思いこみによる回り道も、真相にたどり着くための手がかりになります。

    ↩

  37. 37

    先行研究せんこうけんきゅう

    自分が調べたいテーマについて、これまでにほかの人が行った研究のこと。何がもうわかっていて、何がまだわかっていないかを知ることで、自分の研究で新しく何を確かめるかがはっきりします。今回の東西効果や、検出器を離してシャワーの大きさを測る方法は、加速キッチンの中高生の研究テーマにもなっています。

    ↩

REFERENCES

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画像・動画のクレジット

このページの写真や図は、Wikimedia Commons などで公開されている、パブリックドメインまたはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのものを使っています。

  1. ノルウェー北部リンゲンフィヨルドの夜空に広がる緑色のオーロラ(2012年3月)Ximonic (Simo Räsänen) / CC BY-SA 3.0(トリミング・縮小・加工)
  2. 会議の場で話すピエール・オージェ(左、眼鏡の人物)とオットー・ハーン(右)(1959年)Willy Pragher(Landesarchiv Baden-Württemberg) / CC BY 3.0 DE
  3. フレミングの左手の法則。親指が力(F)、人差し指が磁場(B)、中指が電流(I)の向きJfmelero / CC BY-SA 4.0(画像形式の変換)
  4. 太陽風を受けて変形した地球の磁気圏の想像図。磁力線が地球をとり囲んでいるNASA / Public domain
  5. ジャワ島のバンドン工科大学で物理学の教授をしていたころのヤコブ・クレイ(1924年ごろ)Unknown author / Public domain
  6. オランダとジャワを結んでいたロッテルダム・ロイド社の客船スラマット号を描いた当時の絵はがきUnknown author(KITLV collection, Leiden University Libraries) / CC BY 4.0(縮小)
  7. 宇宙線の測定装置を前にしたアーサー・コンプトン(左)と大学院生のルイス・アルバレス(右)(1933年)Lawrence Berkeley National Laboratory(Photolab) / Public domain
  8. 雪の積もったチャカルタヤ宇宙物理観測所の門。ボリビアのアンデス山中、標高約5,200 mにある宇宙線の観測所DiverDave / CC BY-SA 3.0(縮小)
  9. グレートバリアリーフの海を泳ぐアオウミガメPpmh21 / CC BY-SA 4.0(縮小)

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第3回00:00 / 35:03