アンデス山脈を背に、夜明けの草原に置かれた宇宙線の地表検出器(ピエール・オージェ観測所)

RECIPE04

その1個に、どれだけのエネルギーがあるのか

宇宙から来た粒子たった1個が、投げたテニスボールと同じくらいのエネルギーを持っていた。

話し手 かづお 聞き手 もえ
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写真:Lorenzo Caccianiga / CC BY-SA 3.0(トリミング・縮小・加工)

この回のレシピ

重さや長さには「感覚」があっても、エネルギーの感覚は持ちにくい。Wikipediaの「エネルギーの比較」ページを旅しながら、ジュールと電子ボルトの世界をのぞく。そこで見つかるのが、人類最大の加速器LHCを約8桁も上回る宇宙線「オーマイゴッド粒子」と、日本チームが解析した「アマテラス粒子」。理論上は遠くからは来ないはず(GZK限界)の粒子が、しかも何もない方向から来た──いまも解けない謎と、1.2km間隔で検出器を並べる巨大実験、そして中高生の検出器がつながる話。

調理時間
27:05
盛りつけ
9章・図15点・用語25語
つくる人
かづお + もえ

おもな材料

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かづおもえ点線=用語解説へ

CHAPTER01

エネルギーの「感覚」、持ってますか?

もえ

「加速キッチンの素粒子・宇宙の話」。聞き手のもえです。

かづお

加速キッチンの、かづおです。

もえ

この番組では、宇宙線1や素粒子にまつわるお話をしていきます。今日のテーマは「その1個に、どれだけのエネルギーがあるのか」です。かづお先生、どんなお話ですか?

かづお

はい。聞いている中高生のみなさんにも「なるほど」と思ってもらえるようなお話ができたらと思います。

かづお

ただ、そもそも「エネルギーって実感があるのか」という問題があります。まずはエネルギーそのものの話から始めたいと思います。

かづお

でも、重さとか長さとか時間とかは、日常生活の中で感覚が研ぎ澄まされている人が結構いると思います。でもエネルギーになったとき、「私たちは感覚が研ぎ澄まされているのか」というと、やや怪しいところがあります。

かづお

もえさん、知っているエネルギーの単位って、どういうのがあります?

カロリー(エネルギー)が書かれた栄養成分表示ラベル
FIG.01身近なエネルギーの単位といえば、食べ物の栄養成分表示にあるキロカロリー(写真はアメリカの表示。「Calories」がキロカロリーのこと)。画像:U.S. Food and Drug Administration / Public domain

もえ

食べ物のキロカロリー2とか。

かづお

キロカロリー、いいですね。これは研ぎ澄まされているんじゃない?

もえ

さっきの2つよりは、研ぎ澄まされているかもしれないです。

かづお

すごいですね。

かづお

例えば、この前食べたものが何カロリーか、わかったりしますか?

もえ

一時期、記録をつけていたときは、たぶん感覚が研ぎ澄まされていたんですけど、今はだいぶわからなくなっていますね。

かづお

つけてたんだ!「今日は何カロリー食べた」と、わかっていたときはわかっていた。

もえ

わかっていたときは。

CHAPTER02

ジュールと「エネルギーの比較」

かづお

なるほど。このキロカロリーという単位がありますよね。一方で、SI単位系3という世界標準として広く使いましょうと言われている単位が、ジュール4です。

かづお

カロリーとジュールの関係は、1カロリーがざっくり4.2ジュールくらいです。物理の問題を解くときは、みんなジュールのほうを使っていると思います。でも、カロリーならわかっても、ジュールの感覚はあまりないんじゃないかなと。

かづお

エネルギーなら、ぜひ今見てほしいのですが、エネルギーの比較5というページがあるんですよ。

読み込み中…

FIG.02エネルギーのものさし:とても小さいものから宇宙全体まで。

もえ

エネルギーの比較。

かづお

Wikipediaで「エネルギーの比較」と調べると出てきます。ジュール単位で、人間が知っているごく小さいエネルギーから、とても大きいエネルギーまで並んでいるんです。

かづお

長さの比較とか、磁場の比較とか、いろんなページがあります。私は見ていると夜眠れなくなるくらいハマってしまうんですが、ちょこちょこ見るのはいいんじゃないかなと思っています。

かづお

なので、ぜひ「エネルギーの比較」を見てほしいんです。

かづお

いちばん小さいのが10のマイナス34乗ジュールで、これが1ヘルツの光子が持つエネルギーです。いちばん大きいのが10の69乗、70乗ジュールで、「宇宙の理論上の質量エネルギー(推定)」。ちょっと中二病がくすぐられますよね(笑)。

もえ

なんかかっこいいですね。

かづお

ちょっとおもしろいでしょう。まずは、いちばん大きいものを見たくなるわけですよ。

かづお

見ていくと、カテゴリーがあります。10の40乗あたりには、太陽の何倍もある星の爆発6のような、大きな天体現象がたくさん載っています。もう少し下がると、世界のエネルギー資源の総埋蔵量などがあります。

もえ

本当だ。石炭とか天然ガスとか。

かづお

もう少し下がると、国が1年間で使うエネルギー、地震、ダイナマイトや原爆のような爆弾系があります。そういうカテゴリーがあるんですよね。

かづお

そうやって大きく捉えながら下がっていくと、素粒子や、今回のお話に出てくる宇宙線が、だいたいどれくらいの世界なのかがわかります。

かづお

10のマイナス十何乗からマイナス7乗、8乗あたりを見ていくと、素粒子に関するものがたくさん書いてあります。

かづお

何々という粒子の質量エネルギーとか、どこどこの加速器7のエネルギーとかです。このあたりが、宇宙線や素粒子を考えるうえで大事なエネルギーの大きさなんです。

かづお

なぜこんな話をしているかというと、私たちは10のマイナス十何乗という世界ばかり気にしているので、ジュールという単位は大きすぎて使いづらいからです。そこで、小さいものを表すためにエレクトロンボルト(電子ボルト)8という単位を使うことが多いんです。

かづお

エレクトロンボルト8はジュールより10のマイナス19乗くらい小さいので、ざっくり言うと、ページに書いてあるジュールの値から、10の何乗の部分を19引けばいいんです[編注:ジュールから電子ボルトに直すときは、指数に19を足すのが正しい向きです]。そうすると、このあたりのものをいろいろ表せます。

読み込み中…

FIG.03ジュール ⇄ 電子ボルト 変換機。1 eV はおよそ 1.6×10⁻¹⁹ J。eV → J は10の肩の数字から19を引き、J → eV は19を足す(番組では「ジュールから19引く」と話していますが、逆向きです)。

CHAPTER03

電子ボルトと「絶対エネルギー感」

もえ

ちょうどさっきおっしゃっていた素粒子や加速器のあたりに、ぴったりのエネルギーの単位なんですね。

かづお

そうなんですよ。たとえば、もえさんは長さの単位でオングストローム9って知ってます?

もえ

聞いたことはある、って感じですね。

かづお

どういうときに聞いたりします?

もえ

DNAとかの話のときに使った気がします。

かづお

たぶんそれがとても近い話です。すごく小さい世界の話をしようとすると、メートルはやや不便なんですよね。

かづお

ナノメートルでいいじゃん、という考え方もあるんですが、専用のオングストロームという単位があって、これが10のマイナス10乗メートルです。分子や原子のサイズを比べるときに便利なんです。

かづお

つまり、長さにおけるオングストロームが、エネルギーにおけるエレクトロンボルトにあたります。オングストロームは原子1個のサイズにぴったり合う長さです。エレクトロンボルトは「eV」で、エレクトロンは電子、ボルトは電圧。

かづお

1個の電子に1ボルトかけたときのエネルギーが1エレクトロンボルトで、電子のようなものを扱うときにちょうどいいんですよ。

読み込み中…

FIG.041ボルトの電池で電子1個を加速すると、1電子ボルト(1 eV)のエネルギーをもらう。

かづお

実はこの中に、今回のお話に出てくる宇宙線のエネルギーが書いてあります。宇宙線のものがいくつもあるんですよ。

CHAPTER04

人類の加速器を8桁こえる粒子

もえ

えー、どれだろう。

かづお

見つかりますかね。たくさんありますからね。なんとこの中に、人間が観測した中でいちばん大きいエネルギーの宇宙線があるんです。

もえ

どこだろう……?

かづお

ちょっと探してみてください。

かづお

実は、もっと大きいんですよ。もう少し下のほうを見てください。

もえ

宇宙線、すごい、ありました。10の1乗のところですね。48ジュール。

かづお

そうなんです。これが「これまでに検出された最もエネルギーの大きい宇宙線」で、オーマイゴッド粒子10っていうんですね。

もえ

おもしろい名前ですね。

かづお

おもしろいんですよ。

青い超伝導磁石がどこまでも続くLHCの地下トンネル
FIG.05人類最大の加速器 LHC のトンネル。青い筒は陽子の通り道を曲げる超伝導電磁石。画像:Maximilien Brice (CERN) / CC BY-SA 3.0(トリミング・縮小)
ジュネーブ近郊の衛星画像に描かれたLHCの円形リング
FIG.06LHC のリングは、スイスとフランスの国境の地下約100m(場所によって50〜175m)にある。1周およそ27km(衛星画像にリングの位置を重ねたもの)。画像:NASA/METI/AIST/Japan Space Systems, and U.S./Japan ASTER Science Team / Public domain

かづお

こうして見ると、人間がつくった最大のエネルギーに比べて、ずいぶん高いところにあります。CERNのLHC11の陽子ビームの最大エネルギーと比べると、8桁くらい違います。

読み込み中…

FIG.07LHCの陽子と、宇宙から来た粒子。ふつうの目盛りと、桁の目盛りで見くらべてみよう。

かづお

つまり、本当に高エネルギーの宇宙線は、人間がつくれるエネルギーよりはるかに大きいんです。どれくらいかをジュールで表すと、ここに書いてありますね、48ジュール。

もえ

はい、48ジュール。

かづお

さっき話したように、ちょっとイメージが湧かないと思います。よく言われるのは、大谷翔平がテニスボールを投げるくらい、とか、レンガを足に落としたときの衝撃くらい、とかです。

かづお

このすごさを、ぜひわかっていただきたいんです。要は、テニスボールの中に原子が何個入っとるねん、という話で。

読み込み中…

FIG.08陽子たった1個と、投げた野球のボール1個。重さも数もまるで違うのに、エネルギーは同じくらい。

もえ

あー、確かにそうですね。

かづお

アボガドロ数12というものがあって、これくらいの大きさのものには、10の26乗とか、それくらいの数の原子が入っています。それを投げて、はじめて何十ジュールになる。そのエネルギーを1個の粒子が持っているとなると、すごいんですよ。

もえ

だいぶ破壊力がありそうな……。

CHAPTER05

アマテラス粒子という名前

かづお

今、世界で測られた中でいちばん高いエネルギーがこのオーマイゴッド粒子で、2番目に高いエネルギーで測られているのがアマテラス粒子13です。

もえ

アマテラス粒子。

かづお

そう、アマテラス粒子。みんな名前がおもしろいですよね。

もえ

アマテラス粒子は、見つけた人が名前をつけるんですか?

かづお

見つけた人が名前をつけるんですよ。アマテラス粒子を観測したのはテレスコープアレイ14という実験で、アメリカのユタ州にある大きな検出器で見つけたんですが、実際にデータを解析して論文を書いたのは日本の研究者なんです。

もえ

日本の方なんですね。

天の岩戸から光とともに現れるアマテラスを描いた浮世絵(春斎年昌、1889年)
FIG.09春斎年昌が描いた天の岩戸の場面(1889年)。「アマテラス粒子」は、太陽の神アマテラスにちなんで名づけられた。画像:Shunsai Toshimasa / Public domain

かづお

そう思うと、アマテラス粒子という名前も、納得感がありませんか?

もえ

そうですね。日本っぽいなと思っていたので、アメリカと言われてちょっとびっくりしたんですけど、日本人の方なんですね。

かづお

アマテラス粒子だったり、オーマイゴッド粒子だったり——

CHAPTER06

GZK限界──遠くからは来ないはずの宇宙線

かづお

これね、実は、宇宙線に関して、この「エネルギーの比較」に書いてあるものが、もう1個、もうちょっと上にあるんですよね。8ジュールのところに、宇宙線のエネルギーのGZK限界15とあります。

もえ

GZK限界。初めて聞きました。

かづお

ですよね。かっこよさそうな名前なので、ちょっとお話しします。ざっくり言うと、「原理的に、これ以上大きいエネルギーの宇宙線は来ないはず」というのがGZK限界です。

もえ

でも、来てるじゃないですか。

かづお

いい反応をしていただいて、ありがとうございます(笑)。まず「理論上来ない」とはどういうことか、から説明する必要がありますね。

かづお

宇宙線がどこからやってきたかは、今日話すと大変なことになるので、どこかの回でお話ししたいのですが、銀河の中や銀河の外からやってきます。光の速さで来るとはいえ、何千光年、何万光年という距離なので、何千年、何万年という時間をかけてやってきます。

かづお

その間、ほぼ真空中を通ってくるので、基本的にはエネルギーを落とさずに地球に届くはずです。ところが、宇宙空間は宇宙背景放射16というエネルギーの低い光子で満たされていて、宇宙線はそれにだんだんエネルギーを奪われてしまうんです。

かづお

そうすると、あるエネルギー以上のものは、地球にたどり着く前に減速してしまいます。それがどれくらいのエネルギーかを計算したのが、このGZK限界です。宇宙背景放射って、聞いたことあります?

もえ

聞いたことはあります。

かづお

せっかくだから、クイズにしましょうか。宇宙背景放射って、どういうものですか?

もえ

宇宙全体から来ているマイクロ波、みたいなイメージです。

かづお

すごい。波長が長い、つまりエネルギーが小さい光です。宇宙の歴史の中に宇宙の晴れ上がり17という出来事があります。光子が、電離したプラズマにぶつからずに、自由にまっすぐ進めるようになりました。

WMAP衛星による宇宙マイクロ波背景放射の全天マップ
FIG.10宇宙背景放射の全天地図(NASA の WMAP 衛星)。宇宙の晴れ上がりのころの光が、いまも宇宙じゅうを満たしている。これが宇宙線にとっての「光の雨」。画像:NASA / WMAP Science Team / Public domain

かづお

そのときにできた最初の光が、宇宙が大きくなるにつれて波長がどんどん伸びて、今、宇宙背景放射としてこの世界を満たしています。なので、エネルギーのとても低い光があるわけです。

かづお

エネルギーが低いなら、宇宙線が通ってきてもほとんど関係ないように思えます。でも、相対的に見ると大いに関係があるんです。宇宙線はとても速いので、宇宙線の視点から見ると、止まっているものがものすごい速さで自分に向かってくるように見えます。

もえ

あー、自分が動いているから。

かづお

そう。新幹線が走っているときに雨が降っていたら、新幹線から見ると、雨粒がすごい勢いで自分に当たってきますよね。普通に考えたらダメージのない雨粒でも、「痛い」となるのと同じです。

読み込み中…

FIG.11新幹線と雨:地上から見るか、新幹線から見るか(系をかえる)で、雨粒の速さもぶつかるエネルギーも変わる。

かづお

宇宙線も、この光子に当たるときの相対的なエネルギー18がかなり大きくて、十分に反応してしまうほどです。それで、どんどん減速していきます。

かづお

それをしっかり計算すると、ざっくり10の19乗エレクトロンボルト8くらい以上のエネルギーのものは、地球に来る前に遅くなってしまう、というのがGZK限界です。

もえ

じゃあ、エネルギーが大きいものほど、受ける影響も大きい、みたいな感じですか?

かづお

これは高校物理で習う空気抵抗19の話に近い気がします。空気抵抗には、速度の2乗に比例する成分と、速度に比例する成分があって、高校でやるのはたぶん速度に比例するほうです。

かづお

計算すると、速いものほど抵抗が大きいので遅くなります。でも重力加速度という加速する成分もあるので、どこかで釣り合って、みんな同じ速度(終端速度)になります。

かづお

宇宙線の場合は加速する成分がないので、遅くなる一方です。でも同じように、速いものほど強くブレーキがかかります。なので、これより高いエネルギーのものはないはずなんです。

かづお

では、これより高いものは何なのか。仮説としては、「ものすごく近くから来たのではないか」というものがあります。

もえ

なるほど。

CHAPTER07

何もない方向から来た粒子

かづお

これはすごいチャンスなんです。普通、宇宙線は地球や太陽系や銀河の磁場20に影響を受けて、どんどん方向が変わってしまい、どこから来たのかわからなくなります。でも、これだけエネルギーが大きく、かつ近くから来ている場合は、来た方向が意味を持つんですよね。

かづお

その方向に、それを出した天体がある可能性があります。なので、きわめて高いエネルギーの宇宙線を測ることは、おそらく唯一「どこから来た宇宙線か」がわかる方法なんです。

かづお

エネルギーが大きくてすごい、というのももちろんですが、どこから来ているかがとても大事です。アマテラス粒子も、方向の情報をきちんと解析して論文に出しているんですけど、

もえ

はい。

かづお

なんと、その方向には何もないんです。

もえ

何もない?

かづお

ボイド21といって、そこには、宇宙線をものすごく高いエネルギーまで加速するような天体が見当たらなかったんです。これはまだ謎なんですよ。

2MASSによる近傍宇宙の銀河の全天分布図
FIG.12近くの宇宙にある銀河の分布(2MASS による全天地図)。銀河は一様ではなく、集まっているところと、ほとんどない「ボイド」がある。画像:IPAC/Caltech, by Thomas Jarrett / Public domain

もえ

迷子なんですね。

かづお

そうなんです。

かづお

でも、何かがわからない、説明がつかない、というのは、新しいものが見つかるチャンスかもしれないんです。

もえ

なるほど。

かづお

今、宇宙線物理の中でとてもホットなのが、この超高エネルギー宇宙線22を測ることで、すごく活発に研究されています。

かづお

みんなが一生懸命探す中で見つかったのが、オーマイゴッド粒子であり、アマテラス粒子なんですよね。

CHAPTER08

テレスコープアレイと、みんなの検出器

かづお

このテレスコープアレイ実験は、とんでもない実験なんです。アメリカのユタ州の砂漠の、ものすごく広いところに、1.2kmの間隔で検出器を並べているんですよ。

もえ

1.2km!

ソーラーパネルとアンテナを備えた地表検出器(ピエール・オージェ観測所)
FIG.13南米アルゼンチンのピエール・オージェ観測所の地表検出器。ユタ州のテレスコープアレイでも、ソーラーパネルで動く検出器が約1.2km間隔で並んでいる。オージェは水タンク(粒子が水の中で出すかすかな光をとらえる)、テレスコープアレイはプラスチックシンチレーター(粒子が通ると光る板)と、しくみはちがう。画像:Tobias Schulz / CC BY-SA 4.0(縮小)

かづお

1.2kmです。山手線の駅の間隔ごとに検出器が並んでいる、というのが、はるか彼方まで続いているんです。

かづお

それくらい高いエネルギーだと、宇宙線の空気シャワー23がものすごく大きいので、それを全部カバーして測ろうとすると、そうなるんです。

扉を開けたテレスコープアレイの大気蛍光望遠鏡ステーション(ブラックロックメサ)
FIG.14テレスコープアレイの大気蛍光望遠鏡(ユタ州ブラックロックメサ)。巨大なシャワーが大気をかすかに光らせるのを、夜に大きな鏡で集めて見る。画像:John N. Matthews www.telescopearray.org / CC BY-SA 3.0

かづお

なぜわざわざそこまで大きな検出器群をつくって頑張っているのかというと、さっき話したようなロマンがあるからです。

かづお

人類が本気を出して投資して、ようやく見つかる。しかも、10年に1回来るかどうか、というほどめったに来ない粒子を、こうやって測ったんです。ロマンに満ちた宇宙線の話でした。

もえ

最前線と言いつつ、1.2kmごとに並べていくという手法は、自分でも思いつけそうな気がして、ワクワクしますね。

かづお

すごくいいところに気づいてくれました。これもどこかの回で話すと思いますが、宇宙線がシャワーになっていることに最初に気づいた実験も、2つの検出器を少しずつ離しながら、同時に来たものを数えていったんです。

かづお

そうしたら、結構離しているのに同時に来ているものがたくさんあると気づいて、これはシャワーなんじゃないか、となりました。そのときは百何メートルほど離して実験していたんですよ。

読み込み中…

FIG.15検出器の間隔を変えてみよう:大きなシャワーほど、遠く離れた検出器まで同時に鳴る。(収録のあとで回の順番を入れかえたため、かづおさんが「どこかの回で話す」と言ったこの実験は、第3回で先に紹介しています。オージェたちは1938年、検出器を最大約300mまで離して測りました)

かづお

その源は、とてもシンプルで身近な実験なんです。

かづお

加速キッチンの中にも、こういうものに興味を持って「宇宙線シャワーを測りたい」と言っている子がいます。そういう子にもできるんです。自分の持っている検出器を2個なり4個なり離して置いて測ることで、同じようにシャワーを測ることができます。

かづお

まさに今そういう探究活動をしている子は、これを追体験しながらやっています。やっていること自体はシンプルですが、とてもロマンがあります。中高生の探究活動としても、すごくいいテーマだと思っています。

もえ

確かに、中高生がやっていることが未来の大発見につながるかもしれないって、すごくいいですね。

かづお

そうそう。それで言うと、前に論文で見たのですが、今は小型の検出器が簡単につくれます。究極的には、スマートフォンのカメラセンサー24を検出器として動かすこともできるんです。

かづお

人間はとんでもない数のスマートフォンを持って、いろんなところにいます。もしみんながスマートフォンを宇宙線検出器として動かしたら、テレスコープアレイ実験よりすごいカバーができるのではないか、という論文があるんです。

かづお

夢としては、市民科学25のように、一人で何百台もの検出器を動かすことはできなくても、加速キッチンの規模なら100台はいけるかもしれません。世界の他のアウトリーチプロジェクトと組み合わせれば、1000台いけるかもしれない。そうやってみんなで大きな宇宙線を測れるようになると、おもしろいなと思っています。

もえ

「一人一台検出器」時代ですね。

CHAPTER09

エンディング

かづお

今日は宇宙線のエネルギーがどれだけ大きいか、というロマンの話でしたね。

もえ

はい、すごくワクワクするお話でした。かづお先生、ありがとうございました。

かづお

ありがとうございました。

もえ

番組では、みなさんからの質問を募集しています。概要欄のフォームから送ってください。番組の中でお答えします。

もえ

加速キッチンでは、中学生・高校生に宇宙線の検出器を無料で貸し出しています。気になった人は、加速キッチンのウェブサイトを見てみてください。

もえ

番組をフォローしておくと、新しい回が届きます。お相手は、もえと、

かづお

かづおでした。

GLOSSARY

用語集本文の点線のことばを、もう少しくわしく

  1. 01

    宇宙線うちゅうせん

    宇宙から地球に降りそそぐ、高いエネルギーをもった粒子(おもに陽子などの原子核)のこと。大気にぶつかると、新しい粒子がたくさん生まれて地上まで届きます。地上に届くのは、宇宙から来た粒子そのもの(一次宇宙線)ではなく、大気の中で生まれた粒子(二次宇宙線。おもにミューオン)で、いまこの瞬間も、手のひらを1分に約100個が通り抜けています。

    ↩

  2. 02

    キロカロリー(kcal)きろかろりー

    食べ物の栄養表示でおなじみのエネルギーの単位。1カロリーはもともと「水1グラムの温度を1℃上げるエネルギー」で、1キロカロリーはその1000倍です。1カロリーは約4.2ジュール。

    ↩

  3. 03

    SI単位系えすあいたんいけい

    メートル・キログラム・秒などを基本にした、世界共通の単位のルール(国際単位系)。エネルギーのSI単位はジュールです。

    ↩

  4. 04

    ジュール(J)じゅーる

    エネルギーのSI単位。1ジュールは、約100グラムのもの(小さなみかん1個くらい)を1メートル持ち上げるのに必要なエネルギーです。

    ↩

  5. 05

    エネルギーの比較(Wikipedia)えねるぎーのひかく

    1ヘルツの光子(約10⁻³⁴J)から宇宙全体の質量エネルギー(約10⁷⁰J)まで、あらゆるエネルギーをジュール単位で並べたWikipediaの一覧ページ。かづおさんイチオシの「夜眠れなくなるページ」です。

    ↩

  6. 06

    超新星(爆発)ちょうしんせい

    重い星が一生の最後に起こす大爆発。一瞬で、太陽が一生かけて出すくらいのエネルギーを放出します。宇宙線を加速している場所の有力候補のひとつでもあります。ただし、超新星の残骸で加速できるのは10¹⁵eVあたりまでと考えられていて、アマテラス粒子のような超高エネルギーの宇宙線は、もっと強力な天体(巨大なブラックホールのある銀河の中心など)で生まれたと考えられています。

    ↩

  7. 07

    加速器かそくき

    電場を使って電子や陽子などの粒子を光の速さ近くまで加速し、ぶつけて調べる装置。人間が粒子にエネルギーを与える「人工の宇宙線」ともいえます。

    ↩

  8. 08

    電子ボルト(eV・エレクトロンボルト)でんしぼると

    電子1個を1ボルトの電圧で加速したときに得るエネルギー。1eV=約1.6×10⁻¹⁹ジュールととても小さく、素粒子や原子の世界で使われます。k(キロ)・M(メガ)・G(ギガ)・T(テラ)・P(ペタ)・E(エクサ)と桁をつけて表します。電子ボルトからジュールにするときは10の肩の数字から19を引き、ジュールから電子ボルトにするときは19を足します(番組では「ジュールの値から19引く」と話していますが、逆向きです)。

    ↩1↩2↩3

  9. 09

    オングストローム(Å)おんぐすとろーむ

    10⁻¹⁰メートル(0.1ナノメートル)を表す長さの単位。原子1個の大きさがだいたい1オングストロームなので、原子や分子の世界で使われます。

    ↩

  10. 10

    オーマイゴッド粒子おーまいごっどりゅうし

    1991年にアメリカ・ユタ州のフライズアイ実験が観測した、これまでで最もエネルギーの大きい宇宙線。約3×10²⁰eV(約48〜51ジュール)で、たった1個の粒子が、投げたボールと同じくらいの運動エネルギーを持っていたことになります(番組では、大谷翔平が投げるテニスボールにたとえています。時速約150kmのテニスボール、野球のボールなら時速約93kmのボールに当たります)(正体が陽子か、もっと重い原子核かは分かっていません)。

    ↩

  11. 11

    LHC(大型ハドロン衝突型加速器)える・えいち・しー

    スイスとフランスの国境にあるCERN(欧州原子核研究機構)の、1周約27kmの世界最大の加速器。陽子1個を、設計では7TeV、2022〜2026年の運転では6.8TeV(約1.1マイクロジュール)まで加速しました(2026年10月の時点では、2026年7月から2030年ごろまで、性能を上げる改造のため止まっています)。「エネルギーの比較」の表には LHC が2か所あり、10⁻⁴ジュールの行は鉛などの重イオン(電子をはぎとった重い原子核)、10⁻⁶ジュールの行が陽子1個です。もえさんが見ていた10⁻⁴ジュールのあたりにあるのは重イオンの行で、「8桁くらい大きさが違う」とくらべているのは陽子のほうです。

    ↩

  12. 12

    アボガドロ数あぼがどろすう

    1モルに含まれる粒子の数で、約6.02×10²³個。水18グラムの中に、これだけの分子が入っています。ボール1個には10²⁴個以上の原子が詰まっています(番組では「10の26乗」と話していますが、テニスボール1個の原子は10²⁴〜10²⁵個ほどです)。

    ↩

  13. 13

    アマテラス粒子あまてらすりゅうし

    2021年5月27日にテレスコープアレイ実験が観測した、約2.4×10²⁰eV(244EeV・約39ジュール)の宇宙線。観測史上2番目のエネルギーです。日本の研究チームが解析し、2023年11月に科学誌Scienceで発表、日本神話の太陽神にちなんで名づけられました。

    ↩

  14. 14

    テレスコープアレイ実験(TA)てれすこーぷあれいじっけん

    アメリカ・ユタ州の砂漠で日米韓露などが共同で進める、超高エネルギー宇宙線の観測実験。約500台の地表検出器(シンチレーター)を1.2km間隔で並べ、約700km²(東京23区より広い)をカバーしています。

    ↩

  15. 15

    GZK限界じー・ぜっと・けーげんかい

    1966年にグライゼン、ザツェピン、クズミンの3人が予言した、宇宙線のエネルギーの「上限」。約5×10¹⁹eV(約8ジュール)を超える陽子は、宇宙背景放射の光子とぶつかってエネルギーを失うため、遠く(およそ1.5億〜3億光年より先)からは届きにくいと考えられています。近くで生まれたものなら届くことがあります。番組では「10の19乗eVくらい」と話していますが、正確には約5×10¹⁹eVです。番組の「何千光年、何万光年」は天の川銀河の中くらいの距離で、GZK限界がきく距離(億光年)よりずっと近い距離です。

    ↩

  16. 16

    宇宙背景放射(宇宙マイクロ波背景放射)うちゅうはいけいほうしゃ

    宇宙のあらゆる方向から届く、とても弱いマイクロ波。約138億年前の宇宙誕生から約38万年後に放たれた光が、宇宙の膨張で引き伸ばされたもので、温度にすると約2.7K(−270℃)です。

    ↩

  17. 17

    宇宙の晴れ上がりうちゅうのはれあがり

    宇宙誕生から約38万年後、温度が下がって電子が原子核にとらえられ、光がまっすぐ進めるようになった出来事。それまで霧のようだった宇宙が「晴れた」ことからこう呼ばれます。

    ↩

  18. 18

    相対的なエネルギーそうたいてきなえねるぎー

    同じ雨粒でも、止まっている人と新幹線とでは当たる勢いがちがうように、ぶつかるエネルギーは「お互いの速さ」で決まります。光速に近い宇宙線から見ると、弱いマイクロ波の光子も、陽子とぶつかって「パイ中間子」という新しい粒子を作れるほどの、高エネルギーのガンマ線に見えます。

    ↩

  19. 19

    空気抵抗と終端速度くうきていこう

    空気の中を動く物体は、速いほど大きな抵抗を受けます。落ちる雨粒は重力と空気抵抗が釣り合ったところで一定の速さ(終端速度)になります。終端速度は、物の大きさや形、重さによってちがいます(大きい雨粒ほど速く落ちます)。宇宙線には加速する力がないので、エネルギーを失う一方です(速さはほぼ光の速さのままで、エネルギーが減っていきます)。

    ↩

  20. 20

    宇宙の磁場うちゅうのじば

    地球、太陽系、銀河にはそれぞれ磁場があり、電気を帯びた宇宙線はその中で進む向きを曲げられます。そのため、ふつうの宇宙線は「来た方向」から発生源をたどれません。一方、電気をもたないガンマ線やニュートリノは磁場で曲がらないので、来た方向をたどれば、生まれた天体がわかります。

    ↩

  21. 21

    ボイド(局所ボイド)ぼいど

    銀河がほとんどない、宇宙の巨大な「すきま」。アマテラス粒子がやって来た方向には、天の川銀河のすぐ近くにある「局所ボイド」が広がっていて、宇宙線を加速できそうな天体が見当たりませんでした。

    ↩

  22. 22

    超高エネルギー宇宙線ちょうこうえねるぎーうちゅうせん

    10¹⁸eV(1EeV)を超えるような、とてつもなく高いエネルギーの宇宙線。10²⁰eVを超えるものは1km²あたり100年に1個も来ないほど珍しく、約700km²のテレスコープアレイでも、2008〜2021年の13年半で28個(年に2個ほど)です。アマテラス粒子のような2×10²⁰eVを超えるものは、さらにめったに来ません。どこで生まれるのかは今も大きな謎です。

    ↩

  23. 23

    空気シャワーくうきしゃわー

    宇宙線が大気の原子核にぶつかると、たくさんの粒子が生まれ、それがさらにぶつかって……と、ねずみ算式に増えながら地上に降りそそぐ現象。超高エネルギーだと、地上で数kmにも広がります。

    ↩

  24. 24

    スマホで宇宙線を測るすまほでうちゅうせんをはかる

    スマートフォンのカメラのセンサーには、宇宙線が当たると小さな光の点が写ることがあります。2014年には、世界中のスマホをつなげて超高エネルギー宇宙線を観測しようという「CRAYFIS」という構想の論文が発表されました。

    ↩

  25. 25

    市民科学しみんかがく

    研究者だけでなく、一般の人がデータ集めや観測に参加して進める科学。加速キッチンで中高生が家で宇宙線を測る活動も、そのひとつです。

    ↩

REFERENCES

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画像・動画のクレジット

このページの写真や図は、Wikimedia Commons などで公開されている、パブリックドメインまたはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのものを使っています。

  1. 朝焼けのアンデス山脈を背に、草原に置かれたピエール・オージェ観測所の地表検出器タンクLorenzo Caccianiga / CC BY-SA 3.0(トリミング・縮小・加工)
  2. カロリー(エネルギー)が書かれた栄養成分表示ラベルU.S. Food and Drug Administration / Public domain
  3. 青い超伝導磁石がどこまでも続くLHCの地下トンネルMaximilien Brice (CERN) / CC BY-SA 3.0(トリミング・縮小)
  4. ジュネーブ近郊の衛星画像に描かれたLHCの円形リングNASA/METI/AIST/Japan Space Systems, and U.S./Japan ASTER Science Team / Public domain
  5. 天の岩戸から光とともに現れるアマテラスを描いた浮世絵(春斎年昌、1889年)Shunsai Toshimasa / Public domain
  6. WMAP衛星による宇宙マイクロ波背景放射の全天マップNASA / WMAP Science Team / Public domain
  7. 2MASSによる近傍宇宙の銀河の全天分布図IPAC/Caltech, by Thomas Jarrett / Public domain
  8. ソーラーパネルとアンテナを備えた地表検出器(ピエール・オージェ観測所)Tobias Schulz / CC BY-SA 4.0(縮小)
  9. 扉を開けたテレスコープアレイの大気蛍光望遠鏡ステーション(ブラックロックメサ)John N. Matthews www.telescopearray.org / CC BY-SA 3.0

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